情報番組のディレクターが「いじめ」の映画を撮る理由 「“あってはならない”ではなく、“あって当たり前”と考えてほしい」

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いまのいじめは大人が感知しづらい

「学校内での“いじめ”を扱ったミステリーや、啓蒙的な内容の作品はこれまでにもありました。ただ、いじめ自体を中心的なテーマにして、その実態に迫る映画はあまり見当たりません。加えて、いまの子どもたちと親世代ではいじめの態様も大きく異なっている。そこで、“いまそこにある現実”としていじめ問題を描きたいと考えたのです」

 そう語るのは、「映像集団ふうりゅう舎」代表の浜川昌宏さん。これまで「こたえてちょーだい」、「午後は○○おもいッきりテレビ」といった情報番組、「スーパーモーニング」などのワイドショー、さらにはバラエティ番組の制作にディレクターとして携わってきた。

 浜川さんは、いじめ問題を正面から描く映画「黒猫先生」を企画。デリケートなテーマゆえ、大口のスポンサーを探すのではなく、クラウドファンディングで制作費を募っている。

 それにしても、ワイドショーやバラエティ番組でキャリアを積んできた人物が、なぜ“いじめ”をテーマに映画を撮ろうと考えたのか。

 実は、浜川さんは、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が出演するYouTubeチャンネルの制作に携わっており、そこで改めて、いじめ問題の深刻さを痛感したという。

「ワイドショーでいじめに関する事件を扱うと、親や関係者に取材はするものの、どうしても事件の異様さをクローズアップして“いじめっ子”を批判する内容に終始してしまう。また、子ども自身がいじめを告発するのもハードルが高い。やはり“学校”という閉ざされた空間で起きた、子ども同士のトラブルの全貌を把握するのはかなり難しいのが実状です。しかも、最近はSNSなどを通じていじめがエスカレートすることも増えており、ますます周囲の大人が感知しづらくなっています。しかも、私が想像していた以上にいじめ問題は根が深く、件数もはるかに多かった」

刑法犯を上回る“いじめ”の認知件数

 この点について、小川泰平氏は次のように語る。

「私はこれまで“いじめは犯罪”と訴えてきましたが、その件数はいまも増加傾向にあります。文部科学省が公表した、2021年度の小・中・高等学校におけるいじめの認知件数は61万5351件と過去最高を記録しました。調査を開始した13年度のおよそ3倍に当たる件数で、これだけ少子化が叫ばれるなかでもいじめは減る気配がない。22年の刑法犯の認知件数、60万1389件を超えてしまっています」

 小川氏との仕事を通じて、浜川さんはより深く“いじめ問題”を調べ始めたという。

「様々ないじめ事件を追うなかで違和感を覚えたのは、学校や教育委員会が“いじめはあってはならない”という前提に立っていることです。一見すると正しそうに思えますが、この考え方だと“いじめがあっても、なかったことにする”となりかねません。そして、残念ながら実際にそういったケースは珍しくないのです」(浜川さん)

 そこで考え付いたのが、過去に取材した全国各地のいじめ事件をベースに映画を制作し、問題の根幹を明らかにしていくことだった。そのあらすじは以下の通りだ。

<夏休み明けに中学校で起こった少年の投身自殺。学校側は自殺の原因を早々に少年の情緒不安定と断定する。だが、新たに担任に赴任した教師は、「このクラスは何かおかしい」との疑念を持ち、新人の女性教師と共に事件の真相を究明すべく調査を開始する>

「映画にはベテラン教師と、新人教師の二人が登場します。当初、理想に燃えて教壇に立った新人教師は、子どもたちは純粋な存在だと信じ込んでいる。しかし、これもひとつの“決めつけ”で、いじめが起きても“うちのクラスの子がそんなことをするはずがない”と問題の本質を見誤ってしまうわけです」

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