殺虫剤から「感染症トータルケアカンパニー」へ――川端克宜(アース製薬社長)【佐藤優の頂上対決】

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 今年もそろそろ蚊に悩まされる季節である。もっとも近年は、住環境の向上やインフラの整備によって蚊やゴキブリと遭う機会は減り、一方でダニが一年中活動するようになっている。こうした変化に殺虫剤の会社はどう対応し、今後はどのような展開をしていくのか。トップメーカーの事業構想を聞いた。

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佐藤 アース製薬といえば、「アースノーマット」や「ダニアース」、「ごきぶりホイホイ」など殺虫剤の会社として知られていますが、最近は殺虫剤ではなく「虫ケア用品」と呼ばれているそうですね。

川端 お客様のニーズが時代とともに大きく変わってきました。昔と比べいまは虫を見る頻度が減りました。下水などのインフラが整備されて生活環境が改善し、衛生への意識も高まった。私の子供時代なら、そこらじゅうに蚊がいて、蚊帳を吊って暮らしていたわけですが、いまは家の中に蚊が1匹いただけでも大騒ぎになります。

佐藤 一戸建てならともかく、マンションの高層階だと、たまにしか蚊には遭遇しないでしょう。

川端 そうなると、蚊が出てから商品を買うのではなく、虫が出る前に買うようになります。いまの時期から吊り下げ式の虫よけを吊るしておけば蚊が来ないだろう、と。

佐藤 予防的な消費行動になった。

川端 「退治」のニーズはもちろんですが、近年「予防」のニーズもとても高まってきています。

佐藤 それは会社としても大きな変化でしたね。

川端 また、住宅の気密性が非常に高まりました。いまは冬でも部屋が暖かく、加湿器も使いますから、ダニにはもう楽園です。このため、ダニ退治の商品は通年商品になっています。

佐藤 ゴキブリはどうですか。

川端 以前に比べたら遭遇頻度が減っていますね。やはりインフラが整備されたので、ゴキブリには住みにくい世の中になっています。いま、こうした虫に関するさまざまな変化が起きています。その中で、これまでの殺虫剤という考え方が合わなくなってきた。そこで「虫ケア」という言葉を考えたのです。

佐藤 人間にとって快適な状態を作り出すにはどうすればいいか、という発想になったわけですね。

川端 その通りです。それから地球規模の「異常気象」もあります。本来は何年かに1度起きるから異常気象だったのが、恒常的になっているように思います。

佐藤 何十年ぶりの豪雨、という表現はもう聞き飽きるほど聞きましたね。

川端 記録的な集中豪雨が頻繁に発生し、梅雨は梅雨らしくなくなり、以前は沖縄から徐々に北東に上ってきた台風もいきなり関東に襲来したりする。これまでの経験値が生かせなくなっています。ここ10年ほどは、過去のデータがまったく当てになりません。

佐藤 天候はダイレクトに虫の生態に影響を及ぼすでしょうね。

川端 会社にとっては、暑い時期が少しでも長い方が良いのです。私が新入社員の頃は、ゴールデンウイークくらいに販売店に行くと、「おお、よく来てくれた。そろそろやなぁ」と迎えられ、お盆過ぎに行けば「川端さん、もう用事ないで」と言われたものです。私は、夏だけ用事のある人だったんですよ(笑)。

佐藤 もとは夏が近づくと虫ケア用品や衣類用防虫剤を新たに投入したり増産したりし、一方、秋冬には入浴剤を売るというモデルだったそうですね。

川端 そうです。現在は温暖化で11月、12月でも虫に遭遇する機会がありますが、主に出る虫が違ってきています。また、夏場は暑すぎて虫が弱っている。ただ、いきなり日本全体が亜熱帯化するとは思えませんし、またいままでの気候のままでもない。今後、昔はいなかった虫が出てくる可能性もありますし、逆に10年後、虫ケア用品はいらないかもしれない。会社としては、どんな状況になっても対処できるようにしなければなりません。

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