穀物市場で日本が「買い負け」する日は来るか――新妻一彦(昭和産業株式会社代表取締役会長)【佐藤優の頂上対決】

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 食品の値上げはいまも続くが、この先懸念されるのは、食糧自給率38%の日本がこれまで通り世界各地から食糧を調達できるかどうか、である。人口増加著しい国々が経済力をつけ、価格より量を優先して食料を確保しに動き出す時、日本はどうなるのか。高品質で安価な食品に慣れた日本人への警鐘

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佐藤 私の母は沖縄の久米島出身で、現地の食事がそうであるように、家では頻繁に天ぷらが食卓に並びました。その時に使っていたのが「昭和即席天ぷら粉」です。

新妻 ありがとうございます。

佐藤 沖縄では、天ぷら粉に塩を少し加えて揚げ、食べる時はつゆにつけないんです。

新妻 そのままの塩味で食べるわけですか。

佐藤 そうです。母はそれを作りながら、この天ぷら粉を使うと作りやすいと、よく言っていました。

新妻 「昭和即席天ぷら粉」が発売されたのは1961年のことです。それまでは自宅で天ぷらを作ると上手に揚がらず、非常に難しかったんですね。

佐藤 小麦粉を卵と合わせるとき、どうしても粉がうまく溶け切らずにダマになります。

新妻 その通りで、薄力粉からやると失敗が多かった。ですから小麦粉にでん粉、卵黄粉、卵白粉にベーキングパウダーなどを加えたプレミックス(調製粉)を作って売り出したのです。こうした天ぷら粉は世界で初めてでした。発売してみると、簡単に作れると評判になって大ヒットし、現在まで続く定番商品となりました。

佐藤 私も子供の頃から慣れ親しんでいますから、いまも天ぷら粉といえば「昭和」です。

新妻 そうした方が多く、年齢で言うと、圧倒的に50代から60代の方々がヘビーユーザーです。

佐藤 近年はそれが進化して「おいしく揚がる魔法の天ぷら粉」や「もう揚げない!! 焼き天ぷらの素」といった商品がありますね。

新妻 「おいしく揚がる魔法の天ぷら粉」は、商品の袋がボウル替わりになっており、袋に水と食材を入れて振る/もむだけで、誰でも簡単にサクサクした天ぷらが揚げられます。ボウルや泡だて器が不要で、油も少なくてすみます。

佐藤 洗い物が減らせる。

新妻 はい。「もう揚げない!! 焼き天ぷらの素」は、衣をつけて大さじ3杯程度の油で焼けばいい。これについては、「とても自虐的な商品ですね」と言われたことがあります(笑)。

佐藤 ああ、食用油も主要な商品ですからね。

新妻 コロナ禍では家で食べる「内食」の割合が増えました。その中でより需要が高まったのが、「簡便即食」というキーワードでした。いまのZ世代や、その上の50代までの世代は、昔のように時間をかけて料理を作らない。

佐藤 つまり、できるだけ簡単に料理をしたいというニーズがある。

新妻 ええ。ですから、初めてでも簡単に作れるとか、家の中が油で汚れない、洗い物があまり出ないようにするなどのニーズを取り入れて、商品を開発していく時代になったと思います。しかも1人世帯、2人世帯が増えて、何人分もの料理を作る必要がなくなった。

佐藤 だから1袋2~3人前の使い切りタイプがちょうどいい。

新妻 その通りです。天ぷらだけでなく、油を全く使わない、電子レンジでチンすれば唐揚げができる「レンジでチンするから揚げ粉」という商品もヒットしました。この流れは今後も続くと思います。

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