中国の地方政府は外資誘致活動に躍起…だが、その足かせとなる評判の悪い政策を習近平指導部が進めている

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海外からの投資誘致は「反スパイ防止法」が障害に

 地方政府はこれまで、公共事業の積極的な実施を通じて雇用の創出に努めてきたが、その手法は使えなくなっている。コロナ対策関連支出が急拡大する一方、不動産市況の悪化で土地使用権の売却収入が激減し、財政が「火の車」になっているためだ。

 窮地に追い込まれた地方政府は、外国からの投資の誘致に躍起になっている。

 中国の地方政府は、日本や米国など海外で投資家説明会を精力的に開催している。例えば、上海市は今年、100件超の外資誘致活動を計画している(4月18日付日本経済新聞)。

 注目すべきは、中東の政府系ファンドにまで熱視線を送っていることだ(5月9日付フィナンシャル・タイムズ)。中国が影響力を強めつつある中東産油国は昨年の原油価格高騰で潤っており、地方政府は「打ち出の小槌」に猛アタックしているというわけだ。

 だが、地方政府の海外資本の取り込みも、習近平指導部が掲げる国家安全保障を重視する政策が大きな障害となっている。

 中国では4月26日にスパイ行為の摘発範囲を拡大する「反スパイ防止法」の改正案が成立した(今年7月に施行)。さらに、中国の国家安全当局が、中国と米国に拠点を置くコンサルティング会社キャップビジョンに、秘密漏洩の嫌疑で家宅捜索を行うという異例の事態となっており、海外投資家の間で「中国では企業活動も政府の強い干渉を受けることになる」との不安が一気に広がっている(5月11日付ブルームバーグ)。

 海外投資家のセンチメントが悪化する状況では、地方政府のラブ・コールは「水の泡」になってしまうことだろう。

 経済をないがしろにする姿勢を鮮明にしつつある習近平指導部の下で、中国の失業問題はますます悪化する可能性が高まっている。失業問題が引き金となって、中国共産党政権は体制の危機に直面してしまうのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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