年収400万円台でも「中の上」 “中の下”に転落したくない若者たち

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 年収400万円台でも「中の上」という階層意識を持つ若者たちが増えている。長期にわたるデフレの影響や中古市場の拡大によって、購買可能なものが多くなったためで、「デフレ中流」とでも言うべき世代だ。そんな彼らの嵩上げされた中流意識を支えるものがもう一つある。結婚である。

 カルチャースタディーズ研究所代表取締役で、大ベストセラー『下流社会』の著者である三浦展氏と作家佐藤優氏が、日本社会で起きている「中流の解体」について語った。

 (以下、佐藤優氏の新著『国難のインテリジェンス』を再編集)

「中の上」を意識する若者たち

佐藤 三浦先生が2005年に出版された『下流社会』は、画期的な一冊でした。まだ中流幻想が残っていた日本社会に、はっきりと下流社会の現実を突きつけた。あれから15年が経ち、三浦先生は、中流が解体しつつあると指摘されていますね。

三浦 日頃、消費行動などの調査集計業務をしていると、階層意識の「中の中」は全体の真ん中より上に位置していて、その「中の中」と「中の上」の差が減り、逆に「中の中」と「中の下」の間に大きな隔たりがあると思うことがしばしばです。

佐藤 中流が上下に二極化しているということですね。

三浦 ええ。だから「中の中」以上は実質かなり上流の範疇に入る部分があり、「中の下」以下は下流になります。

佐藤 私はいくつかの大学で教えていますが、学生たちは「中の下」という言葉に過敏に反応しますね。何かの拍子に「それは『中の下』という感じがあるな」と言うと、その瞬間にピリピリと電気が走ったような雰囲気になる。特に女子学生がそうです。「中の下」に落ちていくことに対する形而上学的な恐怖があるんですね。

三浦 教えられているのは、どちらの大学ですか。

佐藤 同志社大学と同志社女子大学、そして沖縄の名桜大学です。

三浦 優秀な人が多そうですね。実は内閣府の国民生活世論調査でも三菱総合研究所の生活者市場予測システムの調査でも、近年は「中の下」の意識は減り、「中の上」が増えています。それは若い世代ほど強く出ている。

佐藤 大学生ですから「中の上」くらいの意識はある。下流や「下の上」と言っても、リアリティがありませんが、中流という大枠の中で、その下層に落ちて行くことは現実的に起きうる。その恐怖が特に女子学生たちに共有されているようです。

三浦 そうした恐怖も合わせて考えると、調査で「中の上」が増えているのは、アンケートに「中の下」とは書きたくないということかもしれませんね。年収で見ると、いまは400万円台の25~34歳では「中の上」意識を持つ人が2012年の12%から2020年は19%に増えたんです(注:コロナ後の2022年は18・3%)。

佐藤 商品がほぼすべて100円のローソンストア100に通えば、1カ月1万円程度で食べていけます。年収が400万円あれば、スイーツだって毎日食べられる。

三浦 またスマホでゲームも映画もテレビも音楽も視聴できることが、下流の人々の満足度を上げているようです。

佐藤 メルカリなどフリマでも、さまざまなものが安く買えますし。

三浦 中古市場の拡大とデフレの影響も大きいですね。消費税は5%から10%に増えたので、消費支出は増えないのに買えるものが増えた。いわば「デフレ中流」あるいは「偽装中流」という気がします。

佐藤 客観的には「中の下」でも「中の上」くらいまで嵩上げされているわけですね。下流でも中流の意識を持つ人も多いでしょう。

三浦 階層意識は相対的なものですからね。

佐藤 三浦先生は、最大のコト消費は結婚だと書いておられますね。

三浦 はい。先ほどお話しした年収400万円は、結婚できるかどうかのラインです。近年の傾向では、男性のほうが結婚や子供を持つことを評価する傾向があって、結婚すると階層意識が上昇します。400万円に届かなくても、結婚で「中の中」という意識を持つようになる。マイホーム、マイカーは賃貸やレンタカーで済ませられますが、結婚はそうはいきません。

佐藤 レンタルでは済ませられない。

三浦 この30年、女性は結婚しない生き方とか、男性が独占していた仕事に生きがいを見いだすとか、どんどん選択肢を広げてきました。でも男性は社会的に認められるために、結婚は重要という意識がある。

佐藤 一方の女子学生たちは、恋愛志向が弱まっている気がしますね。恋人はいる。でも同棲している人が少なくなりました。

三浦 なるほど、同棲ですか。

佐藤 同棲しているというレッテルを貼られることに警戒心が強い。結婚は恋愛よりお見合いがいい、という人も数多くいます。理由を聞いてみると、親なんです。親が気に入らない人を連れて行って、説得するコストを考えたら、親が選んでくれた人の方がいいと考えている。

三浦 家柄を気にするのはこの20年くらいで強まった気がします。1970年代だと、格差のある結婚を称揚するようなドラマがたくさんありました。でもそういうことを若い人たちはもう望まないのでは。これからはマッチングアプリでAIに見つけてもらうことになるんでしょうね。

佐藤 テレビドラマでも、『逃げるは恥だが役に立つ』と、約30年前の『ずっとあなたが好きだった』では、同じように高学歴で恋愛経験がなく、母親の影響が強い主人公が出てきますが、受け止められ方がぜんぜん違う。『逃げ恥』の星野源演じる津崎平匡(ひらまさ)は好感度が高くいい人ですが、『ずっと』の佐野史郎演じる桂田冬彦は、マザコンとして気持ちが悪い人の代名詞となり、佐野さんはCMの話がしばらく来なくなったといいます。

増える未婚シニア男性たち

三浦 いろいろ統計を見ていくと、これから問題になってくるのは、こうした中で結婚しなかった男性たちです。2040年には中年男性だけで347万世帯になると予測されています。特に団塊ジュニア世代は未婚者も離別者も多い。それが50歳になっていく。やっぱり50歳を超えると体力が落ちますし、健康を害することが多くなります。その彼らがその後の20年、30年を果たして幸せに生きられるかは大きな問題です。

佐藤 気をつけないと、あっという間に部屋中がカップ麺とかコンビニ弁当の容器だらけになってしまう。

三浦 ところがカップ麺もファストフードも立ち食いそばも利用度は上流のほうが多く、下流では少ないのです。上流の人は忙しいので、昼はそれらで済ますから。でもコンビニ弁当は明らかに下流で多い。

佐藤 一つの指標なのですね。

三浦 趣味だとパソコンやゲームは下流に多く、スポーツと答えるのは上流ですね。

佐藤 私は『鬼滅の刃』のヒットは、コロナ禍の家族という観点から読み解けると思うのです。カギは鬼です。コロナに感染するのと、鬼になるのは同じようなリスクです。そして禰豆子(ねずこ)を守れるのは兄の炭治郎です。つまり、いざとなったら頼れるのは家族か、その周辺の擬似家族しかないという設定です。それがいまの世界像とピタッと合う。

三浦 やはり結婚が重要になってくる。以前、本にも書きましたが、その意味では、もう子供は作れなくても、50歳過ぎてから結婚することを奨励すべきですね。

佐藤 ここはロシア人に学ぶべきところです。彼らは20歳前後で一度結婚して、だいたいすぐ別れます。次に20代の終わりから30代でもう一度結婚して、子供を作って自立させて別れる。そして50代に三度目の結婚をする。それが生涯のパートナーになることが多いのです。

三浦 50歳や60歳を過ぎても人生最後の伴侶を見つける生き方をする。そうなると、人生のあり方も社会もかなり面白くなってくるでしょうね。

『国難のインテリジェンス』より一部抜粋・再構成。

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佐藤 優(さとう・まさる)
1960年生まれ。作家。同志社大学大学院卒。85年外務省入省。外務本省国際情報局分析第一課などで勤務。2002年背任・偽計業務妨害容疑で逮捕。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』

三浦 展(みうら・あつし)
1958年生まれ。一橋大学社会学部卒。82年(株)パルコ入社、マーケティング情報誌「アクロス」編集部に配属され86年より編集長。90年三菱総合研究所入社。99年カルチャースタディーズ研究所設立。主著に80万部のベストセラー『下流社会』ほか『「家族」と「幸福」の戦後史』『ファスト風土化する日本』『第四の消費』など。

デイリー新潮編集部