「小学生向けの暗算本」が5カ月で40万部超え……担当編集者もびっくりした“意外な読者層”とは

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40万部超の学参書

 一冊の「学習参考書」(学参書)が、売れに売れている。

『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本』(小杉拓也 著/ダイヤモンド社)。なんとも長い書名だが、要するに小学生向けの、算数の学参書である。

「昨年12月に初版6,000部でスタートして以来、増刷がつづき、4月後半の段階で12刷、累計40万5,000部に達しました」

 ダイヤモンド社の担当編集者・吉田瑞希さん自身も、いささか驚いた様子だが、それ以上に「驚いた」ことがあるという。

「もちろん当初の読者は小学生が中心だったのですが、売れ出してから編集部に届く読者の声は、小学生からでも、その両親からでもないんです」

 では、いったい誰が買っているのか。〈読者の声〉とは、誰の声なのか。

 それを明かす前に、ビジネス書の老舗であるダイヤモンド社が、いかにして小学生向けの学参書を出すに至ったのか。そこには、営業職の経験を十二分に生かした、吉田さんの強かな戦略があった。

19×19までの暗算が1日でできる

 本書の著者、小杉拓也氏は、東京大学経済学部卒のプロ講師 。学習塾「志進ゼミナール」を運営し、算数・数学の個別指導をしている。「わかりやすい授業)」がモットーで、常にキャンセル待ちの人気ぶりだという。多くの学参書もベストセラーとなっていた。

「実は小杉先生には、すでに弊社から〈計算本〉を2冊出していただいており、たいへん好評だったんです」

 それが『この1冊で一気におさらい! 小中学校9年分の算数・数学がわかる本』(2012年刊、約4万部)と、『ビジネスで差がつく計算力の鍛え方』(2013年刊、約5万部)だった。

「ただし、この2冊は、あくまで大人のためのビジネス書で、一種の〈学びなおし〉本でした」

 そんなある日、吉田さんは、小杉氏から一風かわったテキストを見せられる。

「2桁×2桁の暗算が、19×19までだったら、1日でできるようになる方法があるというんです。最初は半信半疑でした。私自身、算数は苦手でしたから。ところがテキストをお借りしてやってみたら、ほんとうにできたんです。これには驚いてしまいました」

 これは面白いと、編集者ならではの吉田さんのアンテナがはたらいた。しかし、すぐに〈壁〉が立ちはだかる。

「さすがにこれは、大人向けのビジネス書というわけにはいかない。学参書でいくしかない。しかし弊社はビジネス書が中心で、小学生向けの学参書はほとんど出したことがありません。書店の学参書売場も、まったく縁がありませんでしたし」

 そこで吉田さんは、学参書売場とはどういうところなのか、視察をはじめた。入社当初に営業部で鍛えられていたこともあり、書店まわりは得意だった。その結果、いくつかの発見があった。

「書店の学参書売場は、それなりの広さはあるんですが、なにしろ、国語・算数・理科・社会・英語の5教科が、それぞれ小・中・高とあるので、1ジャンルあたりのスペースはビジネス書と比べるととても小さいんです。なかでも小学校の算数となると、ほんのちょっとしかない。とても平積みや面陳列は無理で、最初から棚差しになるのは確実です。となると〈背〉しか見えない。これは〈背〉で見せる〈書名〉で勝負するしかないと思いました」

 この発見は、のちに独特の書名や装幀デザインに生かされる。

「観察していて、もうひとつわかったことがあります。お母さんは、子供が『これがほしい』というと、中身も値段も確認せず、すぐに買ってくれるんですね。てっきりすべて親が選んでいるかと思ったら、子供ファーストなんです。ということは、書名ももちろんですが、本全体のデザインやレイアウトなどを、子供が楽しく感じられるものにする必要があるなと感じました」

 かくして、96頁で〈背〉は薄いものの、ちゃんと〈19×19〉〈かんぺきに〉〈暗算〉が目立つ長い書名、そして明るくて楽しい、清潔感のあるデザインの本が出来あがった。

 2月の中学受験も視野に入れ、学参書が動くといわれる年末年始を狙って昨年12月に刊行した。

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