まずくて煩わしい機内食は不要? 過去に「ウマい」と感じた“例外”を紹介(中川淳一郎)

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 JALとANAで機内食廃止に向けた動きが始まりました。上級乗客は事前にラウンジでおいしいご飯を食べますし、エコノミークラスの乗客だって寝たり仕事に専念したりしたいのに、隣でせわしなく片付けをされるのは煩わしい。何より機内食は大抵まずいです。

 だからこの流れには賛成。飲み物とスナック菓子程度でいいです。何しろエコノミーの定番である乾燥パンや謎の甘過ぎお菓子、それにキュウリの種が肥大化したような非新鮮野菜はヒド過ぎる。毎度残します。

 魚を頼めばあんかけの水分を吸いまくった分厚い衣付きで、パスタはゆで過ぎだし、鶏のトマト煮は固い。ソバは粉っぽくてプチプチと切れまくる。結局つけあわせのゆで野菜に塩と胡椒をかけてビールのつまみにするのが一番ウマいという体たらく。希望者のみの事前注文制でいいでしょう。

 東南アジアであれば4~7時間程度。このくらい食事間隔が開くことはよくあるわけで、搭乗の前後に機内食よりもおいしいものを食べる方が幸せです。

 とはいっても、時々ウマい機内食ってのもあるんです。人生最高の機内食は1993年、ノースウエスト航空でシカゴに行った時に軽食で用意されていた細長いハムサンドイッチです。これは「うぉぉ!」と思うウマさで、4切れをすぐに食べてしまいました。

 これが漫画『美味しんぼ』54巻「父のサンドイッチ」という回に登場したものとソックリでした。同作では、外国人向けのサンドイッチを提供する店の出店コンペが描かれました。他のコンペ参加者は創意工夫に溢れたサンドイッチを出すのですが、この回の主役である母子が出したのは食パンを細く切り、8枚ほどのハムを挟んだだけのもの。外国人審査員は当初この母子にやる気がないと思ったのですが、これこそが彼らが自国で慣れ親しんだハムたっぷりサンドイッチ。日本のペラペラハム1枚だけが入ったサンドに欲求不満だった彼らは、このハムサンドを採用するのです。

 話がそれましたが、昔、「なぜ機内食はマズいのか」について予備校講師と議論したことがありました。彼の仮説は「運賃は据え置きなので材料費をケチって利益増を図っている」というもの。機内食の製造会社と航空会社はナァナァの関係で、自由競争原理が働いていないとの推測です。

 似ているのが、新型コロナのホテル療養者に各自治体が食事を配った件。同じ自治体なのに、ホテルによって豪華さが違う。大阪府は「金額と内容が見合っていない」とのネットの指摘を受け、実態調査をしました。その結果、2022年3月、41の施設中19施設が1日あたり2700円のうち最大700円をピンハネしていたことを発表。自由競争ではない時の「あるある」ですよね。

 あと、機内食を選択制・廃止にした場合、一度に大勢が便所へ行かなくなる利点もあります。みんなが一斉に食事をするから、約20分後にはトイレが大混乱になり、我慢に悶える人も……。その後も便意・尿意は何度か来るわけで、狭い座席を移動するのは窓際・真ん中席の人も恐縮するし、通路席の人も面倒。これがなくなるだけで、かなり空の旅は快適になります。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年5月4・11日号掲載

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