NHK「のど自慢」はなぜ生バンドからカラオケになったのか チーフプロデューサーが苦渋の決断を語る

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往復葉書

 中村氏はリニューアル案をまとめる中で、ラーメン店チェーン「博多一風堂」の創業者・河原成美氏(70)の言葉を思い出したという。以前に懇談する機会があり、「変わらないために変わり続けていく」という発言が強く印象に残ったという。

「河原さんはメディアでも同じ発言を繰り返しているので、ご存知の方も多いでしょう。私たちが常に同じ味だと思っているスープも、10年前と今では成分や調合が全く違う。まさに至言ですし、『のど自慢』リニューアルの方向性を指し示していると考えました。放送開始から77年が経ちましたが、さらなる20年、30年を見据え、サステナブル(持続可能)な番組にするためには細かな手直しを常に行う必要がある。まさに『「のど自慢」が変わらないために変わり続けていく』ことを目指したわけです」

 番組視聴率も“残酷な現実”を示していた。長期にわたる下落傾向のため、70代以上の視聴者への偏りが著しい。視聴者の多くから「『のど自慢』は魅力的なコンテンツではない」と言われても仕方なかった。

「リニューアルすれば10代や20代の視聴者はすぐに戻る……なんてことは、もちろん考えていません。ただ、新規参入の少ない業界が滅びるのは歴史の鉄則です。まずは出場希望者を増やしたい。そこで“出場者ファースト”という旗を掲げ、一から十まで聖域なく全ての制作プロセスを見直しました。すると様々な問題点が明らかになったのです。例えば、当時、応募は全て往復葉書でした。若い人は使ったことがないでしょう。そこでWEBでの応募をスタートしました」

“打ち込み”とバンド

 さらに「一刻も早く改善しなければならない」課題として伴奏の問題が浮上した。

「以前はステージの真ん中にバンドが陣取り、上手側に“出場者だまり”を作っていました。18組とか20組の出場者が固まって座り、そこから1組ずつ中央に進んで歌ってもらっていたわけです。ところが新型コロナの感染拡大で、出場者もバンドもゲストも距離を確保してもらう必要が生じました。そこで出場者の皆さんは客席に降りてもらったんです。苦肉の策ですから、もし将来、新型コロナの第9波が猛威を振るったり、他の感染症が世界的に流行しても、同じことは避けたい。となると、バンドと出場者が同じステージに立つのは、スペースの問題からやはり無理ということになりました」

 原曲の再現という観点からも、生バンドによる伴奏は問題があった。特に10代や20代の応募者は、DA PUMPやT.M.Revolution、YOASOBI、Ado、さらには音声合成ソフトの「初音ミク」といったアーティストの楽曲を希望することが多い。

 こうした現代のヒット曲の多くは、シンセサイザーに入力した音源を自動演奏させる“打ち込み”が主流だ。これに生バンドが対応できないことが増えていた。

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