結婚するまで女性を知らなかった43歳夫の告白「いま思えば、奇妙な母子関係が大きく影響した」

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いなくても解けない「縛り」

 その母は、彼の就職が決まるのを待たずに亡くなった。調子が悪いと病院に行って検査入院をしたら、2週間足らずで逝ってしまったのだ。逝ったその日に悪性リンパ腫という病名がわかった。あまりにあっけなかったので家族は呆然とするしかなかった。

「特に父の落胆は見ていられないほどでした。それほど仲がいいようには見えなかったけど、夫婦にしかわからない何かがあったのかもしれません。母が亡くなったからといって、母の倫理観みたいなものは僕の中から消えなかった。むしろ性的なことに興味をもってはいけないと自ら思い込んでしまったようなところがあります。母がいなくなったからこそ、母の教えを守らなければいけない、と。若くて純情だったんでしょうね」

 幸平さんはそうやって自分を縛って生きていった。大学時代もデートひとつしたことがなかった。理工系だったため女性が少なかったのもあるが、学生の分際で女の子とデートするなんて甚だ不謹慎だと思っていたと彼は笑った。

 就職は母が望むような大企業に滑り込んだ。やっと母の願いを叶えたのに母はいない。もしいたら、「これからはどんどん出世してね」というかもしれないが。常に彼に先の目標を押しつけてくる母だったのだ。彼はそれに気づいたが、反発しようにも反論しようにもすでに母はいないのだ。だからその価値観から逃れられなくなっていた。

「結婚するまで僕は女性を知らなかったんです。女子校育ちでしっかりした美和も、もちろん男性を知っているわけがないと思っていた。ところが彼女は初めてではなかった。しかもうまくできなかった僕を誘導してくれたんです。なんだかね……ショックでした。そのショックがあまりに大きくて、それから僕はできなくなってしまった」

 妻は子どもを望んでいた。わかっていながら、彼は妻を避ける日が続いた。

後編【亡くなった父親の日記を読んで知った“本当の夫婦関係”に衝撃… 不倫で悦びを知った43歳夫の述懐】へつづく

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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