「池袋暴走事故」妻子を奪われた遺族が、民事裁判で91歳「飯塚受刑者」からの“謝罪”申し出に激怒した理由

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遺族たちの活動が、芽を出し始めた

 以来、1年半近くが経過したが、謝罪の手紙も陳述書に対する返答も届いていない。飯塚受刑者にとって、謝罪とは何を意味していたのだろうか。松永さんが語気を強める。

「この申し出には本当に振り回されました。もちろん保険会社も営利目的だから自分たちの有利にしたいのは理解できます。だとしても、やり方がありますよね?」

 しかも、交通事故における民事訴訟では、賠償額の減額を狙ったとみられる、保険会社側からのこうした対応による二次被害が相次いでいるという。

「事故で愛する人を亡くしたり、歩けなくなったり、あるいは脳に損傷を負ったとか、一生癒えない傷を心にも体にも背負っている人を相手にしていることを、保険会社側は忘れないで欲しい。不必要に人の感情を逆撫でし、追い込んでいないかと問いたいのです。僕は保険会社1社が許せないと世の中に伝えたいわけではありません。業界全体というマクロな視点で、そういう二次被害を起こさないようにして欲しいのです」

 このような松永さんの心情に対し、被告代理人は取材にこう答えた。

「訴訟継続中なのでコメントは差し控えたい」

 松永さんが副代表理事を務める「関東交通犯罪遺族の会(あいの会)」は昨年7月、損害保険会社側からの心ない対応や暴言などの二次被害を防止するため、指導の徹底やガイドライン策定などを求める意見書を金融庁に提出した。これを受けて日本損害保険協会は同年12月、交通事故被害者や家族の心情を解説した36ページの冊子を作り、会員企業に配布した。松永さんたちの活動が、早速芽を出し始めた。

「金融庁と損保協会は前向きに取り組んでいると聞いています。飯塚氏はもう正せないので、僕は業界の改善をこれからも訴えていきたいです。真菜と莉子の命を無駄にしないために」

 松永さんは6月上旬、民事訴訟の法廷で証言台に立つ。

水谷竹秀(みずたにたけひで)
ノンフィクション・ライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。昨年5月上旬までウクライナに滞在していた。

デイリー新潮編集部

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