チャットGPTで注目 中国政府が生成AIを極度に恐れる理由

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若年層への警戒

 深刻な財政難に陥る地方政府が公共事業などを通じて新たな雇用を生み出せなくなっていることも頭が痛い。苦肉の策として「柔軟な就業」が積極的に推奨されるようになっているが、景気の動向に大きく左右されることから、失業に陥りやすいのが実情だ。

「柔軟な就業は労働者に社会保障を与えず、都合良く働かせるだけの仕組みだ」との批判も日増しに高まっている。

 中国ではゼロコロナ政策が解除されたものの、消費が低迷する状態が続いている。3月の消費者物価指数(CPI)は前月の1.0%から0.7%に鈍化し、経済がデフレ化の様相を呈しており、先行きに暗雲が立ちこめている。

 その影響を最も受けているのは、雇用の面で既に割を食っている若年層だ。

 昨年12月にゼロコロナ政策に反対する大学生らが白紙を掲げて政府批判を展開する「白紙革命」を起こしたことは記憶に新しく、当局はネット上での不穏な動きに神経を尖らせている。中国公安部は3月末、社会不安の芽を摘むため、中国全土で草の根ベースの取り締まりを強化することを明らかにしている。

 中国政府は最先端のツールを総動員して国民の制御に成功しているかに見えるが、不満を募らせる若年層が、生成AIを駆使して政府見解と異なる文章などを拡散させる事態に戦々恐々としているわけだ。

 だが、中国の指導者の心配は杞憂ではないのかもしれない。

「高等教育を受けた人々の割合の上昇がソ連崩壊につながった」と指摘するエマニュエル・トッド氏は、この比率が当時のソ連と同じ水準になりつつある中国でも同じような混乱が今後起きる可能性を示唆している(4月4日付東洋経済オンライン)。

 トッド氏と同様に「欧州の知性」として知られるジャック・アタリ氏も「(共産党の権威が失墜する可能性が高い中国では)今後1990年代のロシアのように政治的混乱が生じ、似た道をたどるだろう。中国は数多くの内戦を経験しただけに大混乱に陥る可能性が高い」と警鐘を鳴らしている(3月30日付日本経済新聞)。

 実質上の皇帝となった習氏が彼らの不吉な予言を覆すことができるのだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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