事情通がマウントを取りたがるせいで何も言えない社会 「ホタルイカの身投げ」のニュースでもあきれ口調の識者が(中川淳一郎)

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 タイからラオスへ移動しました。ラオスでも日本と変わらず人々の飼うペットはネコと犬。やはりこの2種類が圧倒的に飼いやすいのでしょうね。ペットを飼う際に重視すべきは(1)なつきやすい(2)かわいい(3)毒がない(4)飼いやすい(基本的にはエサとトイレを準備するのみ。エサも入手しやすい)(5)襲ってこない──といったところになるのでは。そこから世界中で残ったのがネコと犬なのでしょう。

 かわいさで言えば、イタチとカワウソもアリでしょう。しかし、まったくなついてくれず、すぐに手放したくなってしまうと聞いたことがあります。フェレットだったら犬ネコよりは難しいですが、飼えるようです。飼育用に作られた動物ですから。

 そう考えると、「もしかしたらできるかも……」と短絡的に思う動物の飼育がかなり難しいものであることが分かります。誰もがやらないことを「こちらの心が通じればできるかも」なんて思って、熊を飼ったら飼い主が食い殺されてしまった、という海外ニュースも時々あるわけです。

 神奈川県では、とある夫婦がウサギを飼い始めたら2年で200匹になってしまい、役所にSOSを求めた騒動がありました。また、いわゆる「ミドリガメ」は小さくてかわいいですが、どんどん巨大化し、飼い切れなくなってその辺の川や堀に放して大繁殖してしまう。

 実に人間が身勝手であることを表しているわけですが、上記(1)~(5)がすべて備わっているということにして飼いたいペットを考えてみました。まずはイカです。私は佐賀県唐津市が拠点のため、飲食店には水槽があって生きたイカが悠々と泳いでいます。透き通ったあのボディー、いやぁ、キレイですわ……。あとはホタルイカ。玄関に水槽を置いておけば、夜、暗い廊下を通る時、キラキラと輝いてきれいでしょうね。

 さて、このホタルイカですが、先日「佐渡で、ホタルイカの“身投げ”が発生し、大量のホタルイカが海岸に打ち上がる」というニュースで、地元の人は網ですくって取っていったという記述がありました。この記事を読むと、海岸に打ち上げられたホタルイカを網ですくった、と素人は思ってしまいます。Yahoo!ニュースのコメント欄では「うらやましい!」的なコメントもありましたが、さすが、生態に詳しい富山や佐渡の方々はビシッと言ってくれる。

「あのよぉ、記事を読むと打ち上げられたホタルイカを家に持ち帰ったと思うかもしれんが、分かってる人は、身投げ前に海で捕獲してるんだよ。海岸に打ち上げられたホタルイカなんて、砂を含みまくって食えたもんじゃねぇんだよ」

 なんかあきれ口調なんですよ、この人たち。新しい知識を教えてくれたことに対しては感謝するものの、なんでこんなに上から目線なんだよ。

 そうなんです、いくら「イカを飼いたい」とか「ホタルイカを食いたい」なんて思っても、どうせ事情通が「ケッ分かってねぇな……」的態度を取るので、あんまり願望って言えない社会になっているんですよね。でも、愛嬌のあるハゼとドジョウは飼いやすいです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年4月6日号掲載

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