「清原ジュニア」だけじゃない センバツでスカウト陣が熱視線を送る“2世選手”たち

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注目度を増す“大型右腕”

 そして、筆者がスカウト陣に取材すると、最も名前があがっていた“2世選手”は、東邦(愛知)の大型右腕、山北一颯である。父は、元中日などで中継ぎとして活躍した山北茂利。191cmの大型左腕で、中日時代の2002年から2年連続で57試合に登板している。

 山北は、「背番号10」の控え投手であるが、2回戦の高松商戦で先発を任された。6回を1失点の好投で、チームを勝利に導く。昨秋の東海大会では登板がなく、続く明治神宮大会でも、リリーフで2回を投げたのみで、ほとんど“ノーマーク”の右腕だった。

「先発を言われたのは、試合の3日前です。いざ、球場に入ると、少し緊張しましたが、結果を残せて良かったです。いつも自分は、スピードばかりを気にして崩れてしまうことがあるので、今日は(スピードを)気にせず、ストライク先行で打たせてとることを意識しました。初めての全国舞台での先発で、これだけのピッチングができたので、70~80点くらいはつけられると思います。父には前日の夜に先発することを伝えましたが、『自分は(高校時代に)甲子園で一回も投げていないから、何言っていいか分からないけど、とにかく頑張れ!』とだけ言われました(笑)」(山北)

“偉大な父”を持つ選手は他にも

 この日の山北は、6回を投げて被安打7、無四球。被安打は少ないとはいえないが、安定感を感じるピッチングを見せた。ストレートの最速は142キロ(自己最速は145キロ)をマークしている。

「まだ、動きがギクシャクした投げ方で、体はできていないと思います。ですが、フォームに悪い癖があるわけではないですね。やはり、あれだけの長身(189cm)は魅力的です。しっかりと体を鍛えれば、スピードは、まだまだ速くなりそうです。我々(スカウト)は、選抜や『夏の甲子園』では、基本的に全チーム(の初戦)を一通り視察したら、甲子園を離れるのですが、(1回戦を突破した)東邦は、出場校で最後に登場した高松商と2回戦で対戦したことで、山北の投球を見ることができました。この試合で、多くのスカウトに、その存在が認識されたと思います。山北にとっては、ラッキーでしたね」(セ・リーグ球団のスカウト)

 山北は、万全な実績があるわけはなく、体もまだ細いため、筆者は、大学に進学する予定だという話を耳にしている。数年後のドラフト戦線を賑わせるような右腕に成長する可能性を秘めた選手として、今後活躍を期待したい。

 このほかの“2世選手”の活躍も簡単に触れておこう。中日の二軍打撃コーチを務める上田佳範(元日本ハムなど)の次男、耕晟が、東邦の6番、センターで出場して、初戦の鳥取城北戦で2安打を放った。

 元ヤクルト・宮本慎也の長男、恭佑(東海大菅生・投手)や、広島でスカウトを務める高山健一(元広島)の次男、裕次郎(健大高崎・外野手)はいずれも2年生で甲子園の土を踏んでいる。

 前出の山北は、父がプロ野球選手だったことについて「中学時代までは、周りからそういう目で見られて大変なこともあった」と話していた。偉大な父を持ちながら、甲子園で活躍する選手にまで成長した裏には、本人にしかわからない苦労があったことだろう。

 ここで挙げた“2世選手”が大舞台で結果を残したことは大きな自信となったはずだ。今後も、プレッシャーに負けることなく、さらにレベルアップした姿を見せてほしい。

※本文中の出場選手の学年は、2023年度のもの。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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