夏春連覇を目指す「仙台育英」須江航監督がセンバツで見せた“好采配” 昨夏「青春は密」発言で話題

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タイブレークを想定した練習

 須江監督の念密な準備と柔軟な試合プランの変更は、タイブレーク(延長10回からノーアウト一・二塁の場面でスタート)でも生かされた。

 昨年までは、タイブレークは延長13回から始まったが、今大会は延長10回からにルールが変わった。これを受けて、仙台育英は、大会前の3日間、毎日タイブレークを想定した練習を行っていたという。

 10回表、慶応の攻撃。先頭打者に送りバントを決められて、ワンアウト二・三塁となる。仙台育英の守備陣は、前進守備ではなく、定位置を守っていた。裏の攻撃を残しているとはいえ、失点を覚悟した守備シフトだった。

だが、続く打者に死球を与えて満塁にすると、今度は、一転して前進守備を敷く。結局、3番手で登板した湯田が、キャッチャーフライと空振り三振で無失点に抑えて、10回裏のサヨナラ勝ちに繋げた。

「ワンアウト二・三塁の場面は、2点まで(の失点)はしょうがないと思っていました。3点取られてしまうと、(10回)裏の“攻撃の質”を大きく変えないといけないので……。だから、あの場面は、1点で抑えられれば『OK』、2点までは『仕方がない』という形です。その後の満塁で前進させたのは、デッドボールで満塁という形になったので、ここで(失点を覚悟したように守備のシフトを後ろに)引いてしまうと良くないなと。もう一度チームとして“攻める意志表示”という意味で、前に出しました」(須江監督)

「夏春連覇」を目指すチームの“したたかさ”

 端的に言えば、「攻撃的な守備が、サヨナラ勝ちを呼び込んだ」というわけだ。まさに、須江監督の意図を選手がよく理解して、チーム一丸となった勝利だった。

 この日の甲子園には、三塁側アルプスから内野スタンドまで慶応の大応援団が集結。2019年の夏以来、実に3年半ぶりに「声出し応援」が解禁された球場の雰囲気は、慶応が完全に仙台育英を圧倒していた。

 まるで、アウェーのような状況のなかで、仙台育英は、冷静かつ柔軟に試合プランを変更しながら、見事な采配で勝ち切った。これが「夏春連覇」を目指すチームの“したたかさ”だといえる。

 須江監督は、昨年の「夏の甲子園」の優勝インタビューで「青春って、すごく密」と発言し、コロナ禍に苦しむ日本中に大きな共感を呼んだ。選抜でも再び旋風を巻き起こせるのか、次戦も“須江采配”に期待したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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