あわやレース開催中止の危機 「JRA厩務員ストライキ」の背景にある“賃金格差”

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約1兆円の売上増

 とはいえ、預託料が減ると当然、調教師に入る収入が減ることになる。

「そこで同時に、調教師が払う厩務員の給与を2割カットすることになったのです。ところが、馬券の売上は翌年から順調に回復傾向に転じ、2022年度は、3兆2539億円と、2011年度と比べて、約1兆円も増えているのです。ここまで売上が回復したことで、レースの賞金は上がったものの、厩務員の給与体系は変わらぬまま。競馬会、馬主会、調教師会は潤っているのに、それはさすがにおかしいのではないか、との声が強まり、今回のストに繋がっていったのです」

 ところが、そのストは、1団体の抜けをきっかけに脆くも崩れ去った。

「というのも、給与2割カットは厩務員全体ではなく、2011年に厩務員になった人たちから適用されたのです。それ以前から働いている厩務員はえ置き。組合内でも“格差”があるため、全体で意思を統一し、調教師会に対して強く出るといった動きにはならないのです」

なり手がいない

 別の競馬関係者が言う。

「今回のストについて、競馬ファンの一部からは、“生き物を扱う仕事をしている人が、ストライキとはおかしい”“(給与が)低いといっても、そこそこもらっているじゃないか”“いろんな関係者が迷惑を被ることを考えろ”などと、ストに対して批判的な意見が多かったのですが、当然ながら、ストは労働者がもつ正当な権利。厩務員の仕事は本当に1年間休みなしで、しかも危険の伴う、大変な職業です。もちろん、馬が好きで始めた人も多いですが、それでも、労働に見合った対価が支払われなければ、誰もやる人はいませんよ。実際、かつては人気だったJRAの競馬学校への入学希望者数も、年を追うごとに減っている。馬主、調教師たちが、自分たちのことだけ考え、次世代を育てることを全くしていない。このままでは、いくら馬券が売れようが、競馬を存続させることはいずれ難しくなってくるでしょうね。華やかな競馬界の裏側で、こうした事態になっていることを、この件をきっかけに一人でも多くの競馬ファンに知ってもらいたいですね」

デイリー新潮編集部

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