女王様芸人から介護芸人へ…「にしおかすみこ」の著書から感じる“独特のおかしさ”、その源は?

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「ポンコツ一家」

 そんなにしおかが、再び話題になったのが2021年9月のことである。デジタルメディア「FRaUweb」で家族との生活を書く連載コラムが始まったのだ。このコラムが初回から大反響を巻き起こし、2023年1月にはそれをまとめた著書『ポンコツ一家』(講談社)も出版された。

 彼女はずっと東京で一人暮らしをしていたのだが、久しぶりに千葉の実家に帰ると、家の中がゴミで埋め尽くされ、ホコリと砂まみれになっていた。母親が軽度の認知症を患っていたのが原因だった。実家の惨状を見るに見かねて、にしおかは家族と暮らすことを決めた。現在も家事を行い、母親の世話をしている。

 実家で同居する父は重度の酒好きで、姉はダウン症を抱えている。さらに自分は「一発屋芸人」であるということで、にしおかは自分を含む家族のことを愛情を込めて「ポンコツ一家」と呼んでいる。

「ポンコツ」という言葉はきつい感じに聞こえるかもしれないが、最近のお笑いの世界で使われるときには、そこまで嫌な響きのないポジティブな言葉である。抜けているところがあるけど憎めない雰囲気の人を指して用いられることが多い。

 にしおか自身も、バラエティ番組に出たときには「ポンコツ」と言われることが多かった。ネタでは強気な女王様キャラを演じていたが、テレビでは控えめで弱気な素顔を覗かせることもしばしばだった 。フジテレビの生放送特番で明石家さんまに詰め寄られ、上手く答えられずに泣き出してしまったこともあった。

 そんな彼女は、認知症の母親に何かにつけて罵倒され、振り回される日々を淡々とした筆致で描いている。無理に笑わせようと誇張しているような感じもない。前向きでもなければ後ろ向きでもないし、あんまり深刻になりすぎてもいない。ただ自分が右往左往する現実をありのままに写し出している。

 その飾っていない無防備な感じが妙に面白いし、不思議と明るい気持ちになれるところもある。苦しい現実を苦しいままに描くということが独特のおかしさを生んでいる。

 日本は超高齢社会を迎え、親の介護は多くの人にとって切実な問題となっている。だからこそ、カラッとした明るさでそこに切り込んだにしおかの著書が話題になっているのだろう。女王様芸人から介護芸人に異例の転身を果たした彼女は、これからもさまざまな形で笑いを振りまいてくれるはずだ。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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