古舘・笠井両アナも共感した「スマホ教」の恐ろしさとは

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「そこまで言って委員会NP」で陰謀論をテーマに議論

「ロシアとウクライナは戦争なんてしていない…」

 家族や身近な人がこういった「斬新な説」を口にするようになったらどうすべきだろうか?

「支離滅裂なことを言うな」と強い言葉でたしなめる。「そんなはずはない。なぜなら~」と論破しようとする。選択肢はさまざまだ。

 しかし、ネット上の陰謀論をウオッチしてきた文筆家の物江潤氏によると、それらの方法は全くの逆効果であり、絶対にするべきではないという。

 情報の真偽によらず、ユーザーが求めている情報を次々と送り込んでくるスマホというツールの普及によって、無意識のうちにネット上のデマや陰謀論を信じ込み、周囲に発信してしまう「スマホ教」の教徒が増えている。

 このような危険から自分や周囲の人を守るためにはいったいどうすればいいのか――。

 それをテーマに扱ったのが、3月5日に放送された「そこまで言って委員会NP」(読売テレビ)。

 この日の放送は、「徹底討論! そこまで読んでブックストア」と題し、タイムリーな話題を扱った書籍4冊について、パネラーたちが議論するという趣向だった。

 ここで最初に取り上げられたのが、前出、物江氏の著書『デマ・陰謀論・カルト―スマホ教という宗教―』だ。

「国会議員や芸能人はゴムのマスクをかぶったゴム人間ばかり」

「闇の政府(DS)が有害物質をまき散らしている。飛行機雲はその痕跡だ」

 さまざまなトンデモな説を本気で信じている人が存在しており、しかもそうした説の伝播力はスマホによって強まっている。その力は、従来の陰謀論やカルトのそれをはるかに上回っており、今や「スマホ教」とでも言うべきカルトが誕生してしまっている状態だ――これが同書の指摘している問題点である。

「お前は間違っている」ウクライナ専門家の元に脅迫の嵐

 パネラーの中で、この1年、「Jアノン」にからまれ続けて苦しめられた、と語ったのは岡部芳彦ウクライナ研究会会長。Jアノンとは、アメリカの「Qアノン」(ある種の陰謀論者グループ)の日本版のこと。

 詳細は語らなかったものの、ロシアのウクライナ侵略に関連して、ロシア寄りの意見を持つ人たちに、脅迫めいた言葉や「お前は間違っている」という類の全否定のような言葉を浴びせられることがあったという。

 経歴からいって、岡部氏はウクライナの専門家といってもいいはずだが、そういう人物に対して堂々と「お前は間違っている」と言い切れるのが、“スマホ教徒”の特徴の一つのようだ。

 こうした攻撃に対してどう反応すべきか? 岡部氏の問いに対して、物江氏は「反論や論破をしても解決にはつながらない」と語る。その理由は以下の通りだという。

「主張している人たちには、彼らなりの正義があります。反論や論破をされたからといって簡単に納得するはずがありません。それは自分自身が信じていることに対して、反論されたときの気持ちを考えればわかるはず」

今は「陰謀論」でも半年後には真実になる可能性も?

 また、厄介なのは一見「トンデモ説」や「陰謀論」であっても、意外と真実を突いていることもあるという点だろう。出演していたジャーナリストの門田隆将氏は、今の時点では「陰謀論」とされているものだって、半年後には真実になることもある旨を指摘した。

 物江氏は、門田氏の意見に同意し、そうした可能性もあるし、何を信じるかは個人の自由だとしたうえで、だからこそ大切なのは「自分の考えを他人に押し付けない」という原則ではないか、と説いた。

 絶対正しいことなんて、誰にもわからない。それを前提としたうえで、違う意見や主義のひとたちと「共生」することが大切だ。だから一見「陰謀論者」「スマホ教徒」に思える相手の意見も全否定はしない。もちろん相手にも同様の姿勢を求める。これが物江氏の主張である。

「見たいものしか見ない」から抜け出すための「デジタルデトックス」

 問題は、脅迫を受けたり、罵倒されたりするわけではなくても、どうしてもネット経由で受け取る膨大な情報には、一定の割合でフェイク、トンデモが含まれていることだろう。

 がんになった時に、検索をすると、次々怪しげなサプリや民間療法の情報が入ってくるようになった、という体験談を語ったのは、笠井信輔・元フジテレビアナウンサーだ。これは多くの人に覚えのある話だろう。

 もちろん、パソコンやスマホの登場以前から、怪しげなサプリも健康法もあった。また「〇〇が世界を支配している」式の世界観も常に存在していた。しかし、前述の通りネットの伝播力は従来とは比べ物にならないほど強力だ。検索履歴に応じて勝手に「こんな話もあります」「こんな情報を知っていますか」と次々に「お勧め」してくるのだから。そして、その情報に目を通せば通すほど、今の自分用にカスタマイズされた情報がさらに目に入るようになっている。

 気付いた時には、世間とかけ離れた「ここだけの真実」に満ちた世界に浸っていることにもなりかねない。これが物江氏の言うところの「スマホ教」の怖ろしさだろう。

 その罠にはまらないためには「デジタルデトックス」が重要だ、と力説したのは古舘伊知郎氏だ。

 スマホばかり見ていると、「見たいものしか見ない」という状態になる。だから自分はあえて見たくもないテレビも見る。それで思考停止の状態を作る。新聞も読む。そこには興味のない情報が多い。仏壇のセール、カニの通販、高級クルーズ船から編集委員のコラムまで。しかしこのようにして、ネット情報のみで加熱した自分の熱を冷ます。毒抜きをする。それが大切なのだ――これが古舘氏が「デジタルデトックス」推薦の弁である。

 あらためて物江氏に、スマホ教にはまらないための心構えを聞いてみた。

「スマホは、スマホを利用していない時間については責任を持ちません。スマホの外にある世俗が崩落しようとも、一向に構わないのです。

 スマホが賢いだけに、それを利用する私たちも賢さを持たないと、いつのまにかスマホの知性に人生を乗っ取られてしまう。そう思っておく必要があるでしょう。

 現実の世界は、それぞれの人の人生はスマホの外にあります。自分の人生の物語をつくるのは自分自身であって、スマホの中の誰かではないし、ましてやAIでもないのです。

 そんな当たり前のことを忘れないためには、古舘さんがお話ししていたデジタルデトックスもとても有効ではないでしょうか。

 また、ネット情報を遮断してしまって、新聞やテレビ、あるいは特定の人の情報だけを信用するというのもまたおかしな話です。それは単にスマホ教ではなくて“新聞教”やあるいは本物のカルトに身を任せてしまうだけ。その意味ではやはり番組に出ていた門田さんが仰るように、常に懐疑的な視点を持って情報に接することも大切かと思います」

デイリー新潮編集部

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