マイナンバーはオンラインでも行政でも使用されない? 「デジタル社会といえるのか」

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大衆の空気を恐れて…

 マイナンバー制度が始まる前から「共通番号」の必要性を説き、現在も蓼科情報株式会社主任研究員、行政システム総研顧問としてシステム開発に携わる榎並利博氏だ。長年、政府のデジタル化プロジェクトに関わってきた同氏によれば、

「1980年代のグリーン・カード制度や2000年代の住基ネットによる住民票コードの失敗で、日本には“番号アレルギー”とも呼ぶべきあしき風潮が醸成されてしまいました。つまり“番号は危ない”“番号は誰にも知られてはいけない”という呪いがかけられてしまったのです」

 すでに述べてきたが、マイナンバーは当人しか知り得ない番号ではなく、秘密でもなんでもない。しかし、

「マイナンバー制度が始まる際も、官僚や政治家は大衆の空気を恐れ、国民の誤解を積極的に解こうとしませんでした。結果、現在のマイナンバーカードは番号が券面に印字されているだけで、ICチップに格納された電子証明書にはマイナンバーが記載されないという非常に使いづらいものになってしまった」(同)

 電子証明書とはデジタル空間における本人確認に使用される証明書で、e-Taxの電子申告やコンビニでの住民票の写しの交付などに使用される。

「電子証明書にマイナンバーが記載されていれば、自分の番号が正しいことを証明するのはインターネットで電子証明を送るだけで済みます。ところが現行のカードでは、別途カードのコピーを郵送しなければそれを証明することができない。これがデジタル社会といえるでしょうか」(同)

すでにトラブルが

 現在のマイナンバー制度では行政機関間の情報連携でもマイナンバーは使われず、番号からわざわざ自動生成した機関別符号という別のコードが使われることになっている。さらにマイナ保険証の目玉である患者の医療情報のひもづけにも、マイナンバーではなく有効期限がある電子証明書のシリアル番号が使われるのだ。

「マイナンバーの一番のメリットは唯一無二であることと生涯不変であること。これにより人為的なミスを防ぎ、確実に本人が特定されるのです。ところが、機関別符号も電子証明書のシリアル番号も変換や更新の際に人為が介入するため、情報の取りこぼしや取り違えのリスクが出てしまう。このような事態を防ぐためにもマイナンバーを堂々と使用するシンプルな制度設計に見直す必要があるでしょう」(同)

 実際、昨年9月には電子証明書の失効後に新しい電子証明書が適切に結びつけられず、申請者にマイナポイントを二重に付与するというトラブルが判明している。ポイントの二重付与は“間抜けな話”で済まされようが、同じことが医療情報の連携で起き、診療情報や投薬情報が誤ってひもづけられてしまえば、命にかかわる問題にもなりかねない。

 せっかく普及させたカードが“宝の持ち腐れ”で終わらぬためにも改善が必要なのだ。

週刊新潮 2023年3月2日号掲載

特集「『河野太郎』に騙されるな ポイントで駆け込む前に考えたい 『マイナカード』の設計不良」より

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