今期ドラマで最もりりしい冨永愛 「性欲の肯定」にも痺れた!

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 若い男だけが罹患する謎の奇病・赤面疱瘡(あかづらほうそう)。致死率が高い感染症のまん延で、江戸の世は若い男が激減。種付けに呼ばれる健康な男たち、遊郭の格子の中も男たち。男手が足りない分、力仕事もこなすようになった女たち。平民の間では女が家督を継ぐように。あら、案外、平和でいい世界ではないかと思ってしまうのが、よしながふみ原作、男女逆転の「大奥」だ。満を持して、脚本を森下佳子に託しただけあって、まあ面白い。

 初回は8代将軍徳川吉宗が民の苦しみを肌で感じとり、浪費と無益な争いの激しい大奥の制度を廃止するところから。吉宗役は今期ドラマの中で最もりりしい冨永愛。馬に乗って海辺を走る姿はマジでかっこよかった。大河で乗馬してます風味の信長や家康より、百倍、いや千倍りりしかった。「着物や化粧に興味はないが、男に興味がないわけではない」ってセリフにも痺れちゃった。性欲の肯定な。

 大奥の男どもが公費を使って裃(かみしも)の高級さで競い合う姿にへきえきするも、世継ぎをと重圧をかけられ、とりあえず気骨のある男を選ぶ吉宗。

 御内証の方となったのは、貧乏旗本出身の水野祐之進(中島裕翔)。家族のために、商家の娘(白石聖)への思いを断ち切って大奥に志願してきた、心のまっすぐな若者だ(そして種付けも得意)。大奥のシステムでは、将軍と初夜を迎えた御内証の方は打ち首。それを知らなかった吉宗は打ち首を回避し、水野を町人として解放。さらに、大奥の男たちを全員解放する。

 で、2話からは吉宗が大奥の歴史をたどっていく。3代将軍家光の時代から大奥に勤める村瀬(石橋蓮司、若き頃は岡山天音。素晴らしき連係)が記したのが「没日録」。大奥での出来事が詳細につづられている。

 そもそも、若くて健康で美しい男を集め大奥を作ったのは、家光の乳母・春日局(斉藤由貴)。すべてはお家存続のためとはいえ、卑劣かつ極悪非道なやり口で集められた男たちの中に、美坊主・万里小路有功(までのこうじありこと・福士蒼汰)がいた。2~5話の家光編は、この有功と家光(堀田真由)のひどく切ない物語。

 大奥特有の陰湿ないじめに始まり、暴君となった家光の苛烈な過去、有功の複雑な心模様が次第に明らかになっていく。そうね、テーマでいえば「嫉妬と屈辱と思慕」かな。堀田は憎しみと荒んだ心が癒やされていくさまを熱演。福士はガンジーばりの非暴力主義で大奥をサバイブするものの、嫉妬に苦しむという生臭さも体現。春日局の息子・稲葉正勝(眞島秀和)は最期で家光への深い思慕を見せた。

 5話の途中からは、5代将軍・綱吉の物語へ。市中では「当代一の色狂い」とうわさされる綱吉、演じるは仲里依紗。きらびやかな出で立ちと妖艶な微笑で、側用人の夫と息子にもゴリゴリ手を出しちゃう感じ、いいね。

 綱吉との間に子がいない正室(本多力ってのが丁度いい)が、種付けの刺客として呼んだのが右衛門佐(えもんのすけ・美青年ではなく、小粋な悪人にしか見えない山本耕史)、というのが綱吉編である。

 見応えある徳川さんちの黒歴史。初代も頑張ってよ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年2月23日号掲載

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