徴用工問題で“速度戦”に失敗した尹錫悦 アベ不在…それでもキシダは騙されるのか

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 対日外交で尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が焦る。「『徴用工問題』の早急な解決」との美名を掲げ日本を操ろうとしたものの、岸田文雄首相がなかなか乗って来ないからだ。韓国観察者の鈴置高史氏が「尹錫悦の作戦ミス」を読み解く。

岸田首相に政治的決断迫る

鈴置:いわゆる「徴用工」――応募工も含まれるため日本政府は「旧朝鮮半島出身労働者」の問題と呼んでいますが、思い通りに交渉が進まない、と尹錫悦政権が苛立ち始めました。

 2月18日、ミュンヘンで日韓外相会談が開かれましたが進展はありませんでした。聯合ニュースの「韓日外相が会談 徴用問題で日本に『政治的決断』求める」(2月19日、日本語版)によると、会談後の会見で朴振(パク・ジン)外交部長官は次のように語りました。

・主要争点について言えることはすべて言った。日本側に誠意ある呼応に向けた政治的決断を求めた。お互いの立場は理解したから、双方の政治的決断だけが必要な状況[である]。

 韓国外交部は1月30日の局長級協議を皮切りに、2月13日の次官級協議、さらには2月18日の外相会談で、韓国政府の解決案を日本の外務省に伝えました。外務省はこれを岸田首相に上げたものの、裁可はすぐには下りそうにない。そこで朴振長官が岸田首相に「早く決断しろ」と催促したのです。

 尹錫悦政権の対日政策のアドバイザーと目される国民大学の李元徳(イ・ウォンドク)教授も「岸田首相ら最高位層の決断が要求される事案だ」と、日本に政治的決断を迫っていました。

 中央日報のインタビュー記事「強制徴用賠償、戦犯企業の参加がカギ…岸田首相の決断が必要」(2月11日、日本語版)での発言です。

日本人が罠に気付く前に

――なぜ、そんなに日本をせかせるのでしょうか。

鈴置:韓国政府が考えるいわゆる徴用工問題の「解決案」は相当にムシがいいものです。日本の国民がじっくりと検討したら反発が高まるのは確実。尹錫悦政権は就任当初から「トップ同士による一括妥結」を掲げ、日本人に深く考える時間を与えない作戦を採ってきました。

 日韓双方の外交当局の発表やリークからすると、韓国政府が今、日本に持ちかけている解決案は以下です。

・韓国政府が所管する財団が「徴用工」やその遺族に対し、日本の被告企業の代わりに賠償金を支払う。その原資は日韓請求権協定で資金を得た韓国企業の寄付などで賄う。
・それに対する「誠意ある呼応措置」として、日本政府は植民地支配を謝罪したうえ、徴用工らを雇用していた会社など日本企業に対し財団への寄付を勧奨する。
・日本はホワイト国(現・グループA)に戻すなど、対韓輸出管理を緩める。その前に韓国はWTO(世界貿易機関)への対日提訴を完全に取り下げる。

「徴用工問題」の原因は日韓国交正常化の際に結んだ請求権協定を韓国最高裁が否認したことにあります。最高裁は判決で日本企業に「不当な植民地支配下で働かされた朝鮮人労働者に賠償せよ」と求めました。賠償に応じれば、正常化交渉で日本が認めなかった植民地支配の不法性を認めたことになるという見え透いた罠でした。

 この判決は条約を否定する国際法違反と尹錫悦政権も分かっている。判決など無視して「徴用工」に対し、韓国政府がカネを払えば済む話なのです。ところが「誠意ある呼応措置」と称して日本に植民地支配の不法性を認めさせようとしている。新たな「罠」です。

 左翼政権だろうと保守政権だろうと、「植民地支配は不法だった」つまり「我が国は法的に植民地になった歴史はない」ことにしたいのは同じなのです。

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