徴用工問題で“速度戦”に失敗した尹錫悦 アベ不在…それでもキシダは騙されるのか

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「謝罪しない日本」こそ望ましい

――いずれ破綻する「解決案」は韓国にとって意味があるのですか?

鈴置:将来、「解決案」が崩壊しても、今現在は韓国は米国に対し「日本との関係を改善しました」と報告できる。日本には輸出管理の厳格化をやめさせたうえ、関係改善の証として通貨スワップ締結などを要求できる。

 スワップ締結は申珏秀氏の持論です。中央日報の「元駐日大使『韓日関係が悪い時こそ指導者は会うべき』」(2019年6月26日、日本語版)で「韓日経済界に良い信号になる」としてスワップ復活を主張しています。

――でも、日本との関係は悪化します。

鈴置:韓国の国益は毀損するかもしれませんが、外交部の「省益」にはおおいに資します。もし、日本が新たな談話で正式に謝ったら今後、歴史カードを使いにくくなるからです。

「日本はちゃんと謝らなかった」ことにしてこそ、歴史カードを温存できるのです。時々、日本を小突いて謝らせるのが外交部の仕事ですが、そのためにもちゃんと謝られたら困るのです。

 申珏秀氏をはじめ、韓国の外交官は日本に対しては歴史カードを武器にするのを常套手段としてきました。それを失うなんて、想像もつかないでしょう。

――「謝罪は『談話の継承』でもいい」は巧妙な罠なのですね。

鈴置:尹錫悦大統領がそれを狙っているかは不明ですが、外交部はそこまで考えているはずです。その計算ができなければ、韓国の外交官ではありません。

――日本の外務省は?

鈴置:日本のメディアに「『談話の継承』案を韓国に飲ませた」と外交的勝利を誇っていますから、今さら修正は効かないでしょう。とりあえず、ボロはでないわけですし。

「アベなきキシダ」なら騙せる

――岸田首相は?

鈴置:安倍晋三元首相や菅義偉前首相は役人に騙されないよう、外務省の息のかかっていない専門家から話を聞いていました。一方、岸田首相にそんなブレーンはいない。外務省がメディアを通じて既成事実を作って行けば、それに乗るしかないのです。

 佐渡金山の世界文化遺産登録の時がそうでした。韓国の外交部は日本の外務省に「登録申請に動いたら“拒否権”を発動する」と威嚇。外務省はそのままメディアにリークして登録断念の空気を作りました(「『アベなきキシダ』なら騙せるはずが… 韓国は安倍元首相死去で右往左往」参照)。

 実際は、韓国に拒否権などありません。ユネスコ世界遺産委員会で3分の2が賛成すれば認められるのです。岸田首相が騙されかけているのを見かねた安倍元首相の説得で、日本政府はようやく登録申請に動きました(「尹錫悦はなぜ『キシダ・フミオ』を舐めるのか 『宏池会なら騙せる』と小躍りする中韓」参照)。
 ただもう、この世に安倍晋三氏はいません。「徴用工」でも、韓国は「アベの不在」に賭けているのでしょう。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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