「うごかす、とめる。」技術を進化させる仕組みを作る――木村和正(ナブテスコ社長)【佐藤優の頂上対決】

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 国内の自動ドアの二つに一つは「ナブテスコ」製なのだという。この他にも産業ロボットの核となる部品や鉄道のブレーキなど、大きなシェアを誇る製品が多々ある。見えざるところで社会を下支えしてきたこの会社はいかに始まり、どう事業展開してきたか。圧倒的な技術力を持つ老舗企業を解剖する。

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佐藤 社名になじみがなくとも、その製品は非常に身近なところにあり、毎日のように使っているということがあります。資料を拝見して、ナブテスコはその典型的企業だと思いました。

木村 国内の建物用自動ドアの5割以上が私どもの製品ですから、日々、どこかでご利用いただいているのではないかと思いますね。弊社は一口で言うと、「うごかす、とめる。」ことに関する、さまざまな製品を提供している会社です。

佐藤 動くものの「制御」ですね。それを核に、非常に幅広い分野で事業展開されている。

木村 大きく四つの事業セグメントがあります。いま申し上げた自動ドアは「アクセシビリティソリューション」と呼んでいる事業です。弊社の自動ドアはオフィスビルや病院、ホテルや官公庁、ショッピングモールなど、さまざまな施設で使用され、世界で約20%、国内では約55%のシェアがあります。鉄道駅のプラットホームドア製品も安全確保を背景に需要が増えてきています。

佐藤 圧倒的なシェアですね。確かにドアの開閉にも「うごかす、とめる。」技術が必要です。

木村 実は弊社は、1950年代に日本で最初に自動ドアを商品化した会社です。最近では自動ドアの機能が進化して、通りたい人だけに反応する「NATRUS+e(ナトラスプラスイー)」という自動ドアを販売しています。

佐藤 どういう仕組みなのですか。

木村 「動線検知制御」と言って、人の動きを分析し、入る人、入らない人を判別するのです。ですから必要な時だけドアが開閉する。これによって不要な開放時間が減るため、空調機の消費電力量の削減ができます。

佐藤 ドアの開閉から、省エネを実現させたわけですね。

木村 その通りです。次に「コンポーネントソリューション」という事業があります。ここでは弊社の主力製品である「精密減速機」と「油圧機器」を扱っています。

佐藤 歯車を組み合わせた手のひらサイズの精密減速機が、ロビーに飾ってありました。産業用ロボットに使われているそうですね。

木村 はい。産業用ロボットの関節部分に組み込まれています。歯車を複数組み合わせることで、モーターの回転を減速し力(トルク)に変換します。中・大型産業用ロボット向け関節用途では、世界で約60%のシェアがあります。

佐藤 これも圧倒的ですね。どうしてこれほど大きなシェアを占めるに至ったのでしょうか。

木村 もちろん製品自体の精度が高い構造ということもありますが、剛性が高く、耐久性に優れていることも特長で、そこが評価されているのではないかと思います。

佐藤 一時からすれば、日本のモノづくりはずいぶんと後退しましたが、まだまだ機械の分野は強いですね。

木村 そうですね。おかげさまでほとんどの日本のロボットメーカーのみならず海外のロボットメーカーにも製品を供給させてもらっています。産業用ロボットが数多く使われている自動車産業では、EV化に伴う生産ラインの新設・更新が急速に進んでいます。またコロナ禍で加速した省人化の流れにより一層、産業用ロボットの需要が高まりましたから、この事業は今後、さらに成長が見込めると思っています。

佐藤 油圧機器は、建設機械に使用されるものですね。

木村 主に油圧ショベルです。都市部の工事現場はもとより、過酷な環境下にあるインフラ工事の現場で使われますから、こちらも耐久性が要求されます。油圧ショベル用走行ユニットは、世界シェアが約25%です。

佐藤 これだけ大きなシェアがあると、ナブテスコ製がスタンダードになって、その業界のイニシアチブが取れますね。

木村 ISO(国際標準化機構)のような「規格」まではいきませんが、製品の形状に大きな影響を与えることはありますね。

佐藤 どういうことですか。

木村 例えば、自動車の生産ラインなどで使われている垂直多関節ロボットでは、私どもの精密減速機が果たした役割が非常に大きいのです。昔のロボットは、油圧シリンダーをつけて動きを制御していましたが、それがなくなり可動範囲が大きく広がるという進化を遂げてきました。このためロボットの形状そのものが変わりました。当社の減速機もその進化に貢献したと思っています。

佐藤 部品が最終製品の形を変えたのですね。

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