【王将戦4局】レジェンド・羽生九段が完勝 藤井五冠は対局後に異例の発言

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 2月9日、10日の両日、東京都立川市の「SORANO HOTEL」で将棋の第72期ALSOK杯王将戦七番勝負の第4局が行われ、挑戦者の羽生善治九段(52)が藤井聡太五冠(20)に107手で完勝し、2勝2敗のタイに戻した。藤井が2時間24分もの大長考の末に決断した1日目の封じ手が、大きな失敗だったようだ。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

ぱたりと止まった藤井の手

 対局後、羽生は「駒損しているので、ゆっくりしてはやられるので、攻めるしかなかった。『4二銀不成』で詰めろ(次に何もしなければ詰まされる状態)をかけて流れがよくなった。負けるとカド番なのでタイに戻せてよかった」と話した。翌日、主催社のスポーツニッポン紙の一面を、恒例の「勝者の記念撮影」でチョコレート職人に扮した嬉しそうな羽生の写真が飾った。

 藤井が最も得意とする「角換わり腰掛け銀」に応じた羽生には、相手の土俵で戦う勇敢さがある。先手番の羽生が駒損をしながらも「負ければカド番になってしまう」と積極的に攻めると、藤井は完全に防戦。1日目から中盤をすっ飛ばして終盤の展開となる。

 午後3時半過ぎの65手目、羽生は「5二成桂」と王手をかけた。真横に成桂をぶつけられた玉で取れなくもないが、銀で取るのが普通。ところが、全然、藤井の手が動かない。ぱたりと止まる。そのまま時間ばかりが過ぎる。おやつの時間となり、羽生はぜんざいとホットティーを、藤井は柚子ジンジャーエールを注文した。両雄とも少し席を外した時に味わったのだろうが、翌2日目の午後のおやつは楽しむ余裕などないはずだ。

仰天の「同玉」から一挙劣勢に

 そのまま午後6時となり、立会人の森内俊之九段(52)が「封じ手の時間になりました」と両者に伝えた。藤井は別室で封じ手を書き、対局室に戻って2通の封書を森内九段に渡した。1通は立会人が保管、もう1通は対局場の旅館などが保管する。かつては1通のみだったが、紛失事故などに備えて2通になったと聞く。

 翌朝9時、森内九段が開いた封じ手は「(5二)同玉」だった。「囲碁将棋プレミアム」で解説していた深浦康市九段(50)は「驚きました。『同銀』しか考えていなかった」と仰天した。副立会人の佐々木大地七段(27)も「意表の一手ですが、真意をつかみかねています」と吐露した。

 初日に同番組で解説していた糸谷哲郎八段(34)は「普通は『同銀』ですが、藤井さんがこれだけ長考しているところを見ると、ひょっとしたら『同玉』かもしれない」と予想していた。

 封じ手の直後、それまで藤井が少し優勢だったAI(人工知能)の評価値は逆転し、羽生が60%の優勢になる。手が進んでも差は開く一方で、羽生は攻め続ける。そして「3一角」と藤井陣に角を打ち込むと、藤井はまたしても1時間以上の大長考に沈む。

 守勢一方の藤井だったが、羽生の歩の前に「取ってください」とばかり銀を置く驚くような受けの手も見せた。羽生は驚いたような表情を見せたが、冷静に対処する。

 局面が進み、藤井は羽生の飛車の真横の自陣の「2二」に角を据えた。これは羽生の飛車が「2一龍」になっての横効きを防ぐのと、遠方から角で羽生陣を狙う不気味な手だった。藤井に飛車を渡すと玉の筋にある羽生陣の浮き駒(他の駒がまったく効いていない位置にあり取られても取った駒を取れない)の金を狙って打ち込めるので怖い局面だったが、羽生は臆せずにさっと飛車角を交換する。藤井の勝率は5%、1%としぼんでゆく。飛車を打ち込んで反撃するが間に合わない。

 羽生は藤井の反撃の要だった「6五」の桂馬を歩で取り、その桂馬で王手。さらに飛車と交換した角も使って鮮やかに仕留めた。

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