男性より女性に筋トレが必要な理由は? 要介護期間を短くするための「スマート・エイジング」実践術

ドクター新潮 ライフ

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女性は男性の3倍超

 生活習慣病は、運動不足や過度の飲食などの文字通り生活習慣に起因しますが、予防には有酸素運動が有効です。有酸素運動には脂肪燃焼効果があり、糖尿病や脂質異常症の改善・予防が期待できるからです。

 脂肪の燃焼は心拍数と関連し、50代であれば心拍数が110前後の時に最も燃焼しやすい。具体的には、1日30分程度のウオーキング、あるいは軽めのジョギングを続けることで充分に効果は期待できます。なにより、道具も必要なく手軽に継続できるのが大きな魅力です。適度なウオーキングは血液の循環を良くし、脳内の血流も改善されることから、後で詳しく触れる認知症予防にも効果があると指摘されています。

 有酸素運動に続けてお勧めしているのが筋トレです。とりわけ、中高年の女性にとって筋トレは重要です。というのも、介護が必要になる原因には男女差があり、男性の場合、運動器障害と呼ばれる「骨折・転倒」「関節疾患」は全体の9.9%に過ぎないのに対し、女性は運動器障害が30.2%も占めます。

 20歳時と80歳時の女性の筋肉量を比較すると、とりわけ下肢、すなわち足腰の衰えが顕著です。閉経に伴う女性ホルモンの減少が影響しているともいわれていますが、いずれにせよ自宅で下肢を鍛えて運動器障害を避けるためには、女優の森光子さんが実践していた「キング・オブ・エクササイズ」とも呼ばれるスクワットなどが良いでしょう。

 深呼吸をするようなゆっくりとしたペースで5、6回スクワットを繰り返し、それを1日3セット行う。万が一ひっくり返っても大丈夫なようにソファーの前で行うなど、転倒対策は忘れないでください。

テレビやYouTubeを見続けるのは…

 さらに、自立的な生活を維持するためには、脳の健康も欠かすことができません。

 脳の機能は加齢とともに変化し、情報処理の速度は低下していきます。

「昨日テレビで観たあの女優、ほら、あの人」

 中高年になると多くの人が経験するこうした現象は、パソコンに当てはめるとCPU(中央演算処理装置)の劣化によって引き起こされます。また、店先で若い店員を怒鳴りつけている高齢者を目にする機会がありますが、怒りっぽくなったりするのは「作動記憶」という機能の低下が原因です。これはパソコンで言えばRAM(揮発性メモリ)の衰えです。

 そして、思考したり、情動を制御したり、記憶をコントロールする機能を司っているのは、額の裏側にある脳の前頭前野です。脳科学的に言うと、認知症はこの前頭前野の活動が低下した状態を指します。したがって脳の健康を保つには、前頭前野の活動をどう活性化させるかがポイントです。では、前頭前野はどんな時に活動するのでしょうか。

 東北大学で機能的MRI(fMRI)を使って脳の働き具合を調べると、例えば瞑想をしている時には前頭前野の活動が低下することが分かっています。

 また、難しい計算をしている時はいかにも頭を使っているように思われがちですが、実はこの時も前頭前野はあまり活動しません。

 一方、テレビを観ている時は、主に後頭葉と側頭葉が活発に活動します。前者は画像を、後者は音を認識しています。ということは、テレビを観ている時には前頭前野は活動せず、ずっと弛緩しているわけです。したがって、老人ホームでテレビをつけっぱなしにして入居者に観させ続けるのは、認知機能を低下させる可能性が大です。コロナ禍でテレビやYouTubeの視聴時間が増えているのも気になるところです。

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