「ウエイトトレーニングを一切しない」山本由伸は、なぜ「日本のエース」になれたのか? 才能を開花させた“常識外れ”の練習法とは
2022年のプロ野球では千賀滉大(ソフトバンク→現メッツ)と佐々木朗希(ロッテ)の164km/を筆頭に、9人の投手が最速160km/h台を記録。150km/h以上をマークした投手はじつに213人もいた。近年著しく進む球速アップの背景にはウエイトレーニングの浸透が挙げられるなか、“異質”なアプローチを見せるのが同10位タイの159km/hを計測した山本由伸(オリックス)だ。<5回連載の第3回>【中島大輔/スポーツライター】
【写真】金メダル獲得の立役者となった、東京五輪での山本由伸投手の勇姿
山本がウエイトトレーニングを一切行わないことは、球界ではよく知られている。代名詞のように語られるのが、やり投げやブリッジという独特な練習法だ。
野球選手はウエイトトレーニングをするべきか、否か――。
しばしば議論になるテーマだが、二元論は不毛に感じる。バーベルやダンベルなどのおもりを持って鍛えるのは、あくまで手段の一つにすぎないからだ。
「ウエイトトレーニングを否定するわけではなく、それよりもBCエクササイズがよりいいっていう言い方になります」
山本は自身の考えをそう説明する。都城高校時代はトレーナーの下でウエイトを行っていたが、感覚的にしっくり来なかったという。周囲と比べて自分のほうが小さいのに、速い球を投げられていたからだ。
同時に、高校時代の山本には違和感があった。たびたび悩まされていた右肘の張りだ。当時から最速151km/hをマークするなど出力が高く、肘の靱帯に高いストレスがかかっていた。医者や整体師からストレッチや、インナーマッスルを鍛えてはとアドバイスされたが、山本は「ピンと来なかった」と振り返る。
高卒1年目に訪れた「最大の転機」
プロ入り後、瞬く間に「日本のエース」と言われる現在地へ飛躍するにあたり、最大の転機は高卒1年目の4月、トレーナーの矢田修と出会ったことだった。柔道整復師の彼が考案した「BCエクササイズ」に取り組み始め、特に同年オフの自主トレから力を入れ出すと、球の質が見違えるように変わった。
「本当に徐々にですけど、成果が出てきて、肘の痛みも気づいたら消えていて、ボールがどんどん強くなっていってという感じです」(山本)
矢田に教わったBCエクササイズや身体の使い方をどのように投球動作に落とし込めばいいかと試行錯誤した。そうして現在のような投げ方に変わると、球の速さと強さがアップし、悩まされてきた肘の痛みも一切なくなった。
興味深いことに、スーツのサイズは年々大きくなっているという。
「身体がどんどん大きくなっていて、形も変わっています。筋肉もなぜか増えているし」(山本)
矢田が考案したBCエクササイズは身体の内部、つまりインナーマッスルに働きかけていく。最初に行うのが「正しく立つこと」だ。山本も通い始めた際、ここから取り組んでいる。
「自分では真っすぐ立てているつもりでいたんですけど、まったくそれはちゃんと立てているとは言えなくて。『これ、真っすぐ立てていないんだ』というところから始まりました」
なぜ、「正しく立つこと」が重要なのだろうか。矢田の解説には以下のように書かれている。
<正しく立てない者は、正しく歩くことはできない
正しく歩くことができない者は、正しく走ることはできない
正しく走ることができない者は、正しく投げることはできない
正しく立つには、正しい呼吸と集中が大切>
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