仏教系タイムリープドラマ「ブラッシュアップライフ」 “目立ってはいけない”地方都市のリアル

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 地方に住む知人で、公務員相手の仕事をする女性がいる。彼女はベージュや茶色の服が多い。無難で目立たず、老けて見えるがそれなりの品がある。もちろん個人の好みだが、仕事柄選ぶ色の傾向はあるなと思ったことが。そんな彼女を思い出させたのが「ブラッシュアップライフ」。地元系タイムリープ・ヒューマン・コメディーと謳うが、確かに。看板に偽りなし。

 田舎というほど田舎ではない、そこそこの地方都市で、実家暮らしの33歳・近藤麻美が主人公。演じるのは安藤サクラ。市役所の国保年金課勤務、地方公務員の日常を淡々と紹介しつつ……ってところで、とにかく同僚女性たちも、親友たちも、全員茶色い。茶色のリアル。地方都市のリアル、33歳のリアル、うわさの伝播が超速ゆえに、目立つことを避けるやや大人のリアル。

 小・中学校の同級生で親友のみーぽん(木南晴夏(きなみはるか))となっち(夏帆)とつるんで、地元密着型ライフ。妙な上昇志向も射幸心もたいして芽生えず、平穏な日々を送ってきた麻美が、車にひかれたところから急展開。

 目覚めると、一面が白い世界。どうやら死んだらしい。窓口の男性(バカリズム)が来世に案内する仕組みのようだ。ところが、麻美の来世はグアテマラ南東部のオオアリクイと知り、食い下がる。なぜにオオアリクイ? 今世での徳が不足していたのではないかと言われ、もう一度、近藤麻美の今世をやり直すことに。

 タイムリープモノは「事件や犯罪を防いで人命救助」系や「欲に転んで業の深さが仇になる、金が目的」タイプが多い。これは、なんというか仏教系? 徳を積む、善行を重ねる使命はあるが、義務ではない。しかも目的は来世の変更。オオアリクイではなく人間に生まれ変わりたいだけ。時間制限もなく、33年の記憶をもったまま、ただただ自分の人生をやり直す気楽さ。マイナーチェンジも可能。私もやり直したいわ。

 麻美は欲深くもなく、特殊能力があるわけでもなく、ちょっと成績が上がった程度。地方公務員から薬剤師に転向、2周目をそこそこ楽しむというところもいい。1周目ではギャンブルで人生が狂った元彼(松坂桃李)にも、2周目では近づかず。

 ただ他人の人生を良くも悪くも変えてしまう可能性に気付く麻美。1周目で大嫌いだった教師(鈴木浩介)を痴漢冤罪から救い、逆に市役所で世話になった上司(竹森千人)を懲戒免職へ追いやることに(当然だがな)。

 歌手を目指したものの売れずに離婚、その後はデキ婚でバイト掛け持ちという同級生の福ちゃん(染谷将太)には、結局何もアクションを起こさず。サクラがその逡巡を涙目で演じたシーンは、表現が深かった。幸せかどうかなんて他人が決めるもんじゃないしねぇ……。

 麻美の人生1周目では女同士の「コロコロ話題が変わり、脈絡なくても心地よく続く会話」を楽しみ、2周目では駆け足だが平成を懐かしく振り返れた。これ、もしや3周・4周もあるのかな。ゲストには主演級俳優が続々登場。意外と深くて、ぜいたくな造りのドラマだ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年2月2日号掲載

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