二人合わせて歯が3本の「きんさん・ぎんさん」はなぜ長生きできた? 健康長寿の新常識は「舌が命」

ドクター新潮 ライフ

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覚えておきたい「背部叩打法」

 また、嚥下に不安を抱えている高齢者などがいる家庭の人は、万が一に備えた対処法をぜひ覚えておいてほしいと思います。

 背部叩打法(はいぶこうだほう)。

 のどを詰まらせた人を前傾させるなどしてその頭を下げさせ、背中をガンガン叩き、とにかく吐き出させる。本当は口に手を突っ込んで詰まった餅をかき出せればいいのですが、高齢夫婦ふたりきりだったりすると難しい場合もあります。実際、「背部叩打法を教えておいてもらって助かりました」と言われた経験もありますので、もしもの時の対策として役に立つはずです。

 そして何よりも、窒息事故のリスクを下げるためには舌の力が物を言います。従って、やはり普段から先ほど紹介したような舌トレを意識することが大切になってくるわけです。

歯が多いことがリスクに?

 最後に改めて、人生100年時代における舌、そして歯、すなわち口の健康に関する「新常識」を確認しておきたいと思います。

 冒頭で説明したように、「8020」は成功し、日本人の歯の健康は増進されました。もちろん、歯が多ければ、咀嚼や嚥下の力は大きく保たれます。しかし、まさに人生100年時代の今、歯が多く残っていることによる”不都合“も見えてきました。

 現在、日本人の「寿命」と、自立的に生活できる「健康寿命」の間には10歳ほどの開きがあります。つまり最後の10年は、介護の世話になったり、入院するなどの生活を強いられるのです。実際、亡くなる直前まで元気な「ピンピンコロリ」で生を全うできる人は1割だけで、残りの9割は寝たきりなどの果てに命が尽きる「ネンネンコロリ」を迎えます。

 現実的にはほとんどの人が自立的に生活できない晩年を過ごすことになるわけですが、寝たきりなどの状態で多くの歯が残っていることは必ずしも健康に寄与するとはいえません。なぜなら、介護施設等で自立的な生活をできない高齢者は、充分な歯みがきなどが難しい場合が多く、結果、その人の口腔内では歯周病菌が大量に増殖し、歯周病になるからです。私はこれを「歯周病パンデミック」と呼んでいます。

 この状態になると、歯周病菌は毒素を出しますので、虫歯にとどまらず、血液中に侵入して心疾患や糖尿病、脳血管疾患、そして認知症リスクを高めることが指摘されています。

 つまり、現実的にはピンピンコロリが難しいなか、高齢者が充分にケアできない歯を多く残していることは、残念ながら逆にさまざまな病気をもたらすリスクを抱えることにつながりかねないのです。

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