2年連続で投手5冠「山本由伸」がプロ1年目に直面した“限界”…「筒香嘉智」を指導した“先生”が「フルモデルチェンジが必要」と伝えた理由

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 2021年から2年連続で沢村賞&最優秀選手に輝いたオリックスの山本由伸は、24歳にして「日本最高投手」の称号を手に入れた。2021年の東京五輪では金メダル獲得に貢献し、今年3月に行われる第5回WBCでは世界一への鍵を握るひとりと見られている。<5回連載の第2回>【中島大輔/スポーツライター】

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「自分自身が想像していた期間をはるかに追い越して、すべてがとんとん拍子で来ているなというのはあります」

 担当スカウトとして山本の才能を見抜いた山口和男は、昨年の春季キャンプ時にそう話した。今から7年前の2016年秋、指名挨拶で「日本を代表するピッチャーになってもらいたい」と伝えたが、これほど早く到達するとは想像できなかったという。

 山本は高卒1年目から、才能の片鱗と懸念材料を同時に示した。

 春季キャンプを二軍でスタートすると、5月9日のウエスタンリーグの広島戦でプロ初登板を果たしている。8月中旬までに二軍で8試合に登板して2勝0敗、防御率0.27と圧巻の数字を残すと、8月20日のロッテ戦で一軍初登板初先発。計5試合に投げて1勝1敗、防御率5.32でシーズンを終えた。

 改めて1年目の起用法を振り返ると、不自然な点に気づくかもしれない。

(1)8月20日登録→8月21日抹消
(2)8月31日登録→9月1日抹消
(3)9月12日登録→9月13日抹消
(4)9月26日登録→9月27日抹消
(5)10月9日登録(同日がチームのシーズン最終戦)

 一軍登録された日に先発し、翌日に抹消が繰り返されているのだ。

「球団がサービスタイムをコントロールしていたのではないか」

 後に振り返り、そんな指摘がなされたこともあった。「サービスタイム」とはMLB(メジャーリーグ)の用語で、日本で言う「登録日数」のことを指す。

 日米ともに、球団の支配下に置かれた選手がフリーエージェント(FA)になって自由に所属先を選べるようになるには、一定の登録日数を満たさなければならない。だからMLBでは選手がFAになるのを遅らせるため、たとえ実力があってもメジャー昇格を遅らせる例が少なくない。

 日本では良くも悪くも登録日数に関する意識は球団、選手ともにそこまで過敏ではないが、山本の1年目はあまりにも不自然だったため、上記の疑いが一部で上がったのである。

肘が1試合でパンパンに

 しかし、山本本人によると事情は異なる。出力が高すぎるあまり、投球時のストレスに右肘が耐えられなかったのだ。

「一軍で投げ始めたときに、肘が1試合でパンパンになっていました。次の登板までに中10日もらっていたんですけど、それでもギリギリ間に合わなくて。でも、投げたいから我慢して投げていたのもありました」

 高校時代から、たびたび肘が痛くなるのが悩みだった。病院や整骨院を訪ね歩いても、原因を突き止めることができない。

「先生たちから『インナーをもっと鍛えたほうがいい』『ストレッチをしてみてはどうか』などとアドバイスをもらったことはたくさんあったけど、僕的には全然納得していなかったというか、ピンと来る答えはもらえていなかったんです」

 プロに入っても、右肘の悩みは一向に改善されない。そんな日々をすごす中で、山本には感じていることがあった。

 今の投球フォームでは、いつか限界が来ると――。

 プロ入り1年目までの山本は、いわゆるオーソドックスな右腕投手だった。ノーワインドアップから左足を上げて、軸足に乗って体重移動をしながら上半身の回転運動の中で腕を振っていく。右腕を振る最中、肘は曲げてから伸ばすようにしならせてリリース時の力に変えた。

 それが現在のように、右腕を後ろに大きく引き伸ばして右肘をほぼ曲げずに投げるようになったきっかけは、入団1年目の4月にさかのぼる。「キネティックフォーラム」を主宰する矢田修と出会ったことだ。

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