五大医学誌が発表「認知症発症リスクは40%低減できる」 実現するために必要な「五感トレーニング術」とは

ドクター新潮 ライフ

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 現在、がんを抜いて「最もなりたくない病気」となっている認知症。鳥取大学医学部教授であり、日本認知症予防学会理事長の浦上克哉氏が、発症リスクを低減させる「五感トレーニング術」について指南してくれた。

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 2年後の2025年には、認知症患者は730万人にも達すると予測されています。この数は、65歳以上の高齢者の実に5人に1人に相当する。現代の日本において、認知症はまさに「国民病」といえるほど切実な問題になっています。

 それでは、日本を悩ませているこの認知症とは、とどのつまりどんな病気といえるのでしょうか。

 私は“人間らしい病”と捉えています。二本足で歩く、手先を器用に使う、複雑なコミュニケーションを行う。こうした人間らしい行動ができなくなっていくのが認知症であり、まさに人間特有の症状なのです。

 このことを逆から考えてみると認知症予防対策が浮かび上がってきます。食べる、眠るといった本能的で“動物的”な行動は、放っておいても意外と最後の最後まで行うことが可能です。

 他方、二足歩行をしたり、編み物などの細かい手作業をしたり、お喋りをしたりという人間らしい行動は加齢とともに難しくなる傾向があり、これらを意識的に継続することがそのまま認知症予防につながるのです。

 実際、認知症は予防できる時代を迎えています。ほんの20年ほど前までは「不治の病」扱いされていましたが、科学の力によって着実に予防法が明らかになってきています。

 その象徴ともいうべきなのが、2017年に英国ロンドン大学の教授らが最も権威のある世界五大医学誌のひとつである「ランセット」に発表し、20年に改訂された研究論文です。この論文では、認知症発症リスクを40%も下げられることが明らかにされ、「12の認知症リスク因子」がこう紹介されています。

(1)難聴   (2)社会的孤立

(3)抑うつ  (4)喫煙

(5)大気汚染 (6)高血圧

(7)糖尿病  (8)肥満

(9)運動不足 (10)頭部外傷

(11)過剰飲酒

(12)教育歴(知的好奇心の低さ)

 これらの因子を取り除ければ、認知症発症リスクを40%低減できるのです。そして、この12の因子は、以下の「三つの習慣」を心がけることによって排除することが可能になります。

A 運動

B 知的活動

C コミュニケーション

 例えば、Cのコミュニケーションを改善することによって、12の因子のうちの(2)社会的孤立や(3)抑うつを防げ、認知症リスクを下げることにつながる。

 では三つの習慣の実践にあたって大事なことは何か。それこそが人間らしさの根源である五感を鍛えることなのです。五感を良好な状態に保っておかなければ、運動も、知的活動も、コミュニケーションもままなりません。

嗅覚を保つことが認知症予防の第一歩?

 そして、老いの象徴的な現象としては、目が見えにくくなったり耳が聴こえづらくなるといったものを想像されると思いますが、五感の中で真っ先に衰えるのは意外にも嗅覚なのです。したがって、嗅覚を保つことが認知症予防の第一歩ともいえるわけです。

 嗅覚トレーニングには「嗅ぎ分け」が有効です。普段は漫然と「花の香り」といった具合にひとくくりにしてしまいがちですが、バラの香りなのか梅の匂いなのか、甘い匂いなのか爽やかな香りなのか、他にはオレンジ、グレープフルーツ、柚子と、同じ柑橘系フルーツの匂いを嗅ぎ分ける訓練をする。なお、ローズマリーカンファー(樟脳)やレモンの香りが、最も認知機能の回復に効果があると報告されています。

 また、写真入りの新聞広告などを見て、匂いを想像してみるのも嗅覚トレーニングのひとつです。ケーキが写っている広告を見て、どんな香りがしそうかをイメージしてみる。こういったことによって嗅覚が刺激されます。

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