「三笘の1ミリ」はどれほどの価値に? 話題沸騰「スポーツNFT」の可能性を「MIXI社長」に聞いたみた

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セカンダリー・マーケット

 木村社長が言う。

「スポーツ・トレーディングカードのデジタル版と理解してもらうのがいちばんわかりやすいでしょう。日本だと、例えばこれまで実物で売られていたプロ野球カードがデジタルになり、しかも枚数限定で価値がきちんと認められている」

 いわば仮想空間であるネット上の画像や動画になぜそれほど高値がつき、しかも1千万単位の投資をする愛好者がいるのはなぜか? 木村社長はこう教えてくれた。

「従来のカードには現物というリアリティーがあります。一方NFTはデータ化された画像や動画が国際社会で信頼されたブロックチェーン技術によって『唯一のもの』『改ざんも複製もできない』と認められて価値が確立した。インターネット上で情報の拡散が可能ですから、所有者がより広く自慢できます。カードや絵を持つ以上の自尊心が満たされ、多くの人から尊敬の眼差しを受けるという意味ではカード以上の充足感や価値があるでしょう。 アメリカで成功の鍵となったのは、プライマリー・マーケットのほかにセカンダリー・マーケットを作ったことでしょう。ポケモン・カードでもそうですが、買った袋の中に欲しかったカードがない。その場合、セカンダリー・マーケットに売り出すことができる。価値の高いカードなら、買った額以上の値段で売れる可能性もある。そこに投資的な価値も生まれるので、スポーツファンだけでなく、投資家たちもマーケットに参入してきたのです」

急激な金融引き締めで

 日本ではMIXIが本家のダッパー・ラボ社と業務提携し、DAZN社と共同でDAZN MOMENTSを立ち上げた。DAZN MOMENTSは、DAZNが主にコンテンツマネジメントやマーケティングを行い、MIXI社がサービス開発、運用を行っており、その商品群のひとつが、冒頭で紹介した「YOMIURI GIANTS 2022 SEASON」だ。

 昨秋になって、アメリカでも一時ほどのブームが沈静化し、価格も落ち着いたと報じられた。そのためスポーツNFTの商品価値を疑問視する空気も日本では広がったが、この理由を木村社長はこう説明してくれた。

「NBA Top Shotが話題になったころ、コロナ禍もあってアメリカは金余り状態で、お金の行き場がなかった。それで投機筋の人もスポーツNFTという新しいマーケットに参入してきた。ところが、急激な金融引き締めで投資マーケットが冷え込んだ。その影響でしょうね。いまは落ち着いて推移していると理解しています。スポーツNFTの未来がなくなったわけではありません」

スポーツビジネスの新たな可能性

 どうやら、スポーツNFTは日本でも今後、着実に様々な形でビジネスに活用されていくようだ。その背景には、スポーツとNFTの親和性があると木村社長は見ている。

「画像とか映像は、人の記憶をサポートするのにすごく優れています。スポーツの価値は記憶と感動。スポーツの持っているメモリアルな価値、記念的であるところに初めて値がついたのがスポーツNFTです」

 これまでスポーツの映像は報道として誰でも見られる、誰でも所有できると思うのが当たり前だった。けれど、それでは選手やその映像を撮影した当事者、その舞台を演出した事業者にはほとんど還元されない。NFTによって、選手やアーティストたちの権利も確保され、正当な報酬が支払われるというメリットもある。そう考えると、「記憶と感動」というスポーツの価値を提供してくれる主人公であるアスリートやその記録者たちのパフォーマンスをずいぶん安く、勝手に共有していたことになる。

 いま頭に浮かぶのは、W杯カタール大会の「三笘薫の残り1ミリのクロス」だ。あの場面の映像がNFTになったら、一体いくらの価値がつくだろう。そう考えると、プロアスリートやスポーツビジネスの新しい可能性を実感する。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。「ナンバー」編集部等を経て独立。『長島茂雄 夢をかなえたホームラン』『高校野球が危ない!』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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