東大生は長時間睡眠が多い? 「寝てない自慢」「忙しいのが良い」という謎文化(中川淳一郎)

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「ヤクルト1000」や「R-1」(明治)など、「睡眠の質を高める」効果が期待される商品がヒットしています。この傾向は良いですね。何しろ、ひと昔前は、「睡眠時間が少ないほどエラい・かっこいい」という風潮があったのだから。学校や会社に来るなり、「いやぁ~全然寝てないよ」や「今日で3徹だよ」などと言う男がいたものです。

 昭和の芸能人も徹夜をした後にそのまま草野球をし、酒を飲みに行ったことを武勇伝のように話していました。しかし、当時から「それ、自慢になるの?」と思ったものです。何しろ、本当に寝ていないのであれば、生産性が落ちまくるし、大事な会議の時に居眠りしたら客先に失礼極まりない。

 しかし、この「睡眠不足自慢」「寝てない自慢」というのは社会の空気が作ったものですね。何しろ、日本では「忙しいですか?」というのが相手を持ち上げるあいさつなのですから。これに対しては「いえいえ、ヤマダさんほど私は忙しくありませんよ」と謙遜する。本当に謎の文化です。

 この亜流として、「〇〇さん、睡眠時間短そうですね」というホメ言葉が存在します。私の場合、この質問は30代後半以降何度も言われたものですが、毎度「オレ、毎日8時間寝てますよ」と答えました。

 するとなぜか相手は「いやいや……(あなたの日々の努力は分かってますよ)」と言う。このやり取りがまったく意味が分からないのですよ。長時間睡眠をする人間はふしだらで、根性が足りないという風潮があたかも存在するかのようです。ナポレオンが1日3時間しか寝なかったということから、この流れが生まれたのではないでしょうか。ナポレオンのように短時間しか寝ない人だからこそ、偉業を成し遂げることができたんだ、という話ですね。

 堀江貴文氏は、長時間寝ることを公言しています。私の周囲だけの話かもしれないですが、堀江氏のような東大出身者および東大生は長時間寝るイメージがあります。そして寝つきがとにかく良い。学生時代、東大OBの知人、東大生の友人の3人で、そのOBの別荘に毎年20泊ほどしていたのですが、この二人の寝つきの良さと朝の起きなさっぷりったら! 私より早く寝て、それでいて遅く起きる。

 あと、私は会社員時代、なぜか東大の駒場寮に住んでいたのですが、その時もルームメートの東大生はすぐ寝るし、長時間寝る。時々泊まりに来る東大生も同様です。これは睡眠の専門家が研究するに値するテーマなのかも、と思いました。いわゆる「頭の良い人は長時間寝る」という結論が出た場合、完全に短時間睡眠を自慢する風潮は消えることでしょう。

 しかし、「長時間寝ただけでは頭は良くならない」という研究結果も合わせて必要です。何しろ勘違いした親が、短時間しか寝ない成績の悪い我が子に無理やり睡眠薬を飲ませ虐待のようなことをする、という事態が発生するかもしれません。

 メディアには「我が子3人を全員東大に入れたお母さん」が登場し、その教育方法を述べています。しかし、あくまでもその3人が勉強が得意だっただけで、マネしても仕方ないのでは、と毎度この手の人の発言を見て感じるのです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年1月5・12日号掲載

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