世界経済のグローバル化に異変 かつてないほど大きくなった負の影響で心配な“戦争リスク”

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「グローバル化が大戦争を招く」

 この動きは他の貿易財に波及する可能性が高い。

 昨年12月、米国が主導する「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の正式交渉が開始された。IPEFは中国経済への過度の依存を脱却することが狙いだ。半導体や重要鉱物のサプライチェーン強化などが議論され、今年中に一定の合意が得られることを目指している。

 イエレン米財務長官は「フレンド・ショアリング」を提唱している。拠点を海外に移す「オフショアリング」になぞらえ、友好国へのビジネス集約を意味する造語だ。

 米国の思惑通り進むかどうかは定かではないが、フレンド経済圏構想は、ブロック経済のように排除の論理が対立を先鋭化させ、世界経済に甚大な被害を生じさせるリスクを内包していると言わざるを得ない。

 危機が叫ばれているグローバル化だが、これを推し進めていけばすべてがうまくいくわけではない。気になるのは「グローバル化が大戦争を招く」という警告だ。

 グローバル化はたしかに世界を豊かにするが、その過程で「勝ち組」と「負け組」が生まれる。勝ち組の諸国に対して不満を募らせる負け組の諸国が最終的に強硬な手段に訴えることになるというのがその理由だ。

 第1次世界大戦がまさにそうだった。

 英国のノーベル平和賞作家ノーマン・エンジェルは1910年、著書で「経済の統合で戦争は無益なものになる」と論じたが、その4年後に第1次世界大戦が勃発した。

 戦後処理が適切でなかったことに加え、大恐慌に見舞われたことが災いして、20年後に悲劇が繰り返された(第2次世界大戦の勃発)。

 これを現在の状況にあてはめてみると、グローバル化は当時に比べて格段に進んでおり、負の影響もかつてないほど大きくなっている。

 40年ぶりのインフレを抑制するため、各国の中央銀行が金融引き締めに転じた影響で今年の世界経済はリセッション(景気後退)入りが確実視されており、大規模な金融危機が発生することも危惧されている。このような事態になれば、自国優先のブロック化の動きはさらに進み、かつてのように大国間の戦争が起きてしまうかもしれない。貧富の格差が深刻化している米国や中国で内戦が起きる可能性すらあるだろう。

 最悪の結末を避けるためには、日本を始め各国は貿易に頼らない形で自国の経済を発展させる取り組みに舵を切るべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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