教育現場の著作物使用が問題視される理由 “著作権後進国”の行く末とは

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補償金が分配されない権利者が

 本来であれば、各学校で教材として使われた著作物の著者全員に対し遍(あまね)く補償金を支払うべきだろう。ところが、サートラスはすべての状況を把握せずに、全国千校だけを抽出、千校の著作物の利用実態をもとに分配するのだ。

 サートラスの担当者に聞くと、

「権利者への補償金の分配にあたっては、21年度は千校、22年度は1200校に利用実態を報告していただき、それを基に計算します。もともと、教育機関が都度、利用許諾を取るのに手間がかかるのでこの制度ができたという事情がある一方、全く報告がなければ、権利者に分配ができません。そのバランスを取るために、サンプル校から報告をいただく形式にしています」

 そうなれば、当然、このサンプル校以外で著作物を利用されながら、補償金が分配されない権利者が数多く出てくることになる。

「サンプルから漏れた権利者をないがしろにしているということはありません。漏れが出てくることはあると思いますので、そちらについては共通目的事業で対応していきます」(同)

 共通目的事業とは、コミックの海賊版対策などサートラスが助成する著作権の保護や普及に資する事業のことで、権利者への分配とは性質が異なる。共通目的事業があるから、分配されない権利者がいてもいいという論理は成り立つまい。これのどこがサンプル調査といえるのか。やはり、本気で著作権を保護しようという気概も誠実さも感じられないのである。

「まだ十分に機能していない」

 学校の著作物利用に詳しい岐阜聖徳学園大学の芳賀高洋・DX推進センター長は、

「教育関係者が知っている権利者団体といえばJASRACくらいしかなく、サートラスによって、多くの権利者が集まったことは大変評価できます」

 としつつ、こう指摘する。

「ただ、学校で利用した著作物の全権利者への分配は難しく、まだ十分に機能していません。集めたお金を行き渡らせる仕組みづくりと、より多くの権利者の組織化は、今後の大きな課題です。もちろん、100%、権利者へ分配を行うのは大変な道ですが、当然、そこに向かっていかなければならない。JASRACも組織の安定には年月が必要でした。時間をかけて課題を改善していってほしいと思います」

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