独白・アントニオ猪木さん 「私の師匠・力道山が北朝鮮からの帰国船で新潟に来た娘・金英淑と対面した日」

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 昨年10月1日に亡くなったアントニオ猪木さん(享年79)は、北朝鮮との外交に尽力したことで知られる。生前の訪朝回数はじつに33回。時に批判も招いた自身の活動について語ったのが以下のインタビューだ。“燃える闘魂”が北に抱いていた想いとは――。(以下「新潮45」2017年11月号より)

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 ミサイル発射や核実験が相次いだ時期なので、今回の訪朝にさまざまな意見があることは分かっています。それこそ、「なんだ! 猪木は北朝鮮のたいこ持ちをするのか!」という批判も含めてね。それに、菅義偉官房長官が会見で「全ての国民に北朝鮮への渡航の自粛を要請している。この政府の方針を踏まえ、適切に対応すべきだ」と、暗に訪朝を見送るよう求めたのも仕方がないことだと思う。実際、いまの北朝鮮が日本にとって脅威であることは間違いありませんからね。

 ただ、私の訪朝が売名行為だと言われることだけは納得がいかない。売名したければ世論に乗って「北朝鮮に制裁を加えよ!」と叫んでいた方がよっぽどいいですよ。私がどれだけ批判にさらされても、北朝鮮問題に関わり続けているのは一貫した政治理念があるからです。それは国同士がどれほど差し迫った状況に直面しても、決して交渉のドアを閉じてはいけない、ということ。1994年に初めて平壌を訪れて以来、毎年のように訪朝を重ねてきた私だからこそできることもある。そう信じているんです。

 この9月の訪朝で、私は実に32回も北朝鮮の土を踏んだことになります。

 今回は、昨年と同じくリ・スヨン朝鮮労働党副委員長から招待されて訪朝しました。彼は、北朝鮮外交のトップに立つ大物のひとりです。

 会談の冒頭、彼は「このご時世に大変だったと思いますが、よくいらして下さいました」と切り出しました。外交経験が豊富なので、国際情勢も日本を巡る状況もよく理解していると思いましたよ。

 私からは、ある自民党の要人が訪朝したいという意向を持っていると伝えました。もちろん、安倍政権の方針もあるので、まだ正式な打診ではなく、書簡も持参していません。ただ、自民党内にもさまざまな考え方の政治家がいるわけです。

 制裁一辺倒なだけでなく、話し合いを重視する人もいる。北朝鮮側は「テーマがはっきりとしない段階では難しいですね」という反応でしたが、最終的には、「前向きに検討させてください」、と。あの国は「お土産」を持たせる国民性があるんですね。心を許した相手は手ぶらで帰らせない。その意味ではこっちの方が大変ですよ。交渉材料に事欠く上、制裁が始まってからは文字通りの手土産すら持ち込めない。税関では荷物を全て開けられて、本も1ページずつめくって調べるんですからね。

 もちろん、北朝鮮側の「前向きに」がどの程度、信用できるかは分かりませんが、こちらとしてはメッセージを投げかけた。一方で、昨年、松浪(健太代議士)さんらと共に訪れたように、自民党を含めた議員団による訪朝について水を向けると、こちらは「ぜひ喜んで」と快諾されました。

 経済制裁に関する話もありましたね。新たな石油の輸出制限に踏み切る国連制裁決議の直前でしたが、「どんな制裁を受けようとも立ち向かいます。これ以上、圧力をかけられるのであれば、我々はもっと厳しい措置を講じるしかありません」と言い放っていた。

 会談後、平壌市内も見て回りましたが、経済制裁による影響は感じられませんでした。むしろ、10年前と比べて高層ビルが驚くほど増えた印象。とにかく街並みが一気に近代化していた。一点だけ気になったのは、9月9日の建国記念日の祭典です。祝賀パーティーでは、最高人民会議常任委員長の金永南さんともあいさつをしましたが、いつものような軍事パレードや、派手に花火を打ち上げるということが一切なかった。来年の建国70周年記念式典に向けて資金を集中させるため、今年は質素にしたのだと思いますが。

 ただ、いかに国連安保理が北朝鮮への石油輸出量を年間200万バレルに制限しようと、彼らは歯牙にもかけないでしょう。中国の遼寧省から延びる石油パイプラインは止めようがないし、また、北朝鮮への接近を強めているロシアからも石油製品は供給され続けていますから。

 また、核実験に関しては昨年訪朝した時点で、北朝鮮側は「もう水爆はできあがっています」と話していました。今回の核実験の規模を考えれば、さらに強力なものになっていると考えるべきでしょう。

 とはいえ、北朝鮮も戦争を求めているわけではありません。

 ズバリ言えば、北朝鮮は日本なんて相手にしていない。もし、技術的なミスで日本にミサイルが落ちでもすれば、自分たちの国がアメリカの攻撃を受けて地球上から消え失せてしまう。そんなことは彼らも十分承知していますよ。

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