辛口コラムニストの2022年ドラマ総括 平均視聴率ランキングでわかった異常事態 良作揃いの意外な局は?(前編)
いいホン・いいヒト・いいシゴト
アナ:それにしてもこれは……。あっ、「民放」の「プライム帯」の「連ドラ」には、そこまで当たりが少なかったということですか、ひょっとして?
林:ひょっとします。いや、国営放送嫌いのワタシとしては苦渋苦悩の果ての断腸の選択でしたが、虚心坦懐明鏡止水で作品に接した末、脳味噌に一番多くシワが刻み込まれたのは、この3本だったと結論するしかありませんでした。何かのアクシデントで録画が失敗していたら、最も深く爪と臍(ほぞ)を噛むのがこの3本でした、とも言えるかな。
アナ:この3本を林さんが評価する理由は何ですか?
林:いいホン(脚本)、いいヒト(役者・スタッフ)、いいシゴト(企画・制作・演技・演出・撮影・照明・美術・音楽、その他いろいろ業務のすべて)が、それなり以上に揃った作品だったから。それに尽きます。
アナ:ああ、なるほど。その点については異論が少ないでしょうね。ただ、「それなり以上に」というところに、ちょっと引っかかりを感じるんですが。
林:ホン・ヒト・シゴトが完璧に揃ったわけじゃないけれど、それなり、つまりギョーカイ標準は超えたレベルで揃った。そういう意味です。
アナ:不景気な民放と安定したNHKという構図は、番組制作でもありますからね。
林:全国津々浦々、貧富貴賤の老若男女から搾り取りまくって、渋谷の放送センターに集めた放送血税にモノをば言わせ、右肩下がりで貧すれば鈍すの民放を尻目に、NHKが贅沢な番組つくりやがっていることは、ご存知のとおり。とはいえ、さすがに世間の風当たりはキツくなって、嫌々、受信料の値下げにまで追い込まれるほどなのも、またご存知のとおりで、制作費の制限もキツくなってきたのか、看板ドラマの大河や朝ドラでも実はけっこう穴がある。
贅沢なNHKにも低予算の工夫
アナ:たとえば?
林:「鎌倉殿」は舞台っぽさ横溢の三谷(幸喜)脚本のおかげもあって、アップを多用しロングを抑えた画面になっていて、あれでセットやらCGやらの制作費がずいぶん抑えられたろうし、「カムカム」ではロケの遠景の背景の時代考証を割り切って、戦前・戦中くらいの時期の河原のフェンスが修正なしで最近のもののまま写ってたりしてました。大河や朝ドラより予算は少なく自由度は高いはずの「オリバー」では、iPhoneで撮影してMacで編集なんてこともやってたらしいから、これまたコスパがいいけれど、出来は味があるといえば味がある、でも、粗いといえば粗い。
アナ:なるほどなるほど。ただ、林さんがいま指摘された1位3作品の穴は、ホンやヒトではなくシゴトの面での穴ですね。
林:鋭い! ドラマにせよ映画にせよ、完成度に対する重要度・寄与度は、基本、「いいホン・いいヒト・いいシゴト」という言葉の順番どおりなんだよね。これは昔、新宿の呑み屋でたまに一緒に呑んでたキャメラさんの至言なんだけど、彼が言っていたのは「まずホンづくり、次にヒトあつめ、最後がシゴトみがき」、そして「一番ケチられるのはシゴト」。今回のNHKの3作品──「隠し砦の三悪人」みたいだ──も、だいたいそういう順番で完成度が高い。
アナ:他の作品との比較がしやすい大河や朝ドラで考えてみると、そのお話、腑に落ちます。ヒトは高い水準で集められ、シゴトはコストカットの対象になりやすいという点は、どの大河、どの朝ドラでも共通ですが、作品それぞれの出来に大きな差がつくのはホンですからね。
林:鋭い!スルドい! ま、ホンといっても脚本家だけの仕事じゃなくて、脚本の前提となる企画が占める分も大きいんだけどね。朝ドラでみれば、「なぜに沖縄?」「なぜに吉本?」という基本の設定についての生臭い疑問が最後まで口の中に残った「ちむどんどん」だ「おちょやん」だは、ホント腹の立つ出来だったでしょ。
アナ:となると、「鎌倉殿」「カムカム」もただ脚本だけでなく、企画もよかったと。
林:どこまで狙っていたかはわからないけれど、どちらも戦争と平和が物語の基盤に据えられていて、それが「なぜに北条?」「なぜに英語?」という疑問の回答にちゃんとなっていた。
アナ:確かに。
林:こういう企画レベルから納得感のあるホンというのが、今年も民放の連ドラには本当に少なかったのよ。
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