アフガニスタン 日本人記者が「地下学校」に潜入取材 タリバンの女子教育禁止に広がる抵抗

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 12月20日、アフガニスタンのタリバン暫定政権は、全国の公立と私立の大学で女子教育を停止するよう命じる通知を出し即日実施された。女子教育に関するタリバンの政策は、国際社会が注視する重要問題で、今回の決定にもアメリカや国連が相次いで非難声明を出している。タリバンは去年8月、米軍が撤退するなか政権を奪取し、その1カ月後、日本の中学高校にあたる7年生から12年生までの6学年の女子の学校教育を禁止した。今回の措置で、女子は小学校までしか学校に通えないことになる。

 タリバンによる政権奪取以降、アフガニスタン国内でも市民たちによる抵抗が広がっているが、その一つの形が学校に通えない少女たちがひそかに勉強を教わる「地下学校」だ。厳しい取材規制のなか、首都カブールで女子教育をめぐる最新事情を追った。

 この日、向かったのは市内の住宅街の一画、1階が商店、2階以上がアパートの小さなビルだった。人に見られぬよう車から降り、地下へと続く階段を下りる。ここは「地下学校」という女子向けの非合法の施設だという。地下には、日本の学校のクラス二つ分ほどの広さのホールがあり、風船で飾り付けられたステージが作られていた。何かのお祝いがあるらしい。そこに別の部屋から、ヒジャブと長衣をまとった少女たちが次々に入ってきてホールは満杯になった。その数100人以上。これほどの数の生徒たちが集まった「地下学校」の映像はメディアでも見たことがない。この「学校」は6カ月が1学期で、きょう行われるのは学期末の修了式だという。

「地下学校」には大きく二つの種類がある。一つは、個人の自宅などでひっそりと少人数を集めて勉強を教えるもので、存在自体が秘密にされている。一方、この日修了式を取材した「地下学校」は、タリバン政権の教育省から「専門学校」の認可を得ている。表向きは女性が編み物や刺繍、コーランなどを学ぶ学校ということになっているのだが、それは「隠れ蓑」で、女子が学ぶことを禁止されている英語や数学、物理、歴史など中等教育の教科も教えているのだ。

 式典で生徒一人ひとりに修了証を手渡すのは40歳代の女性の校長先生。記念撮影をしたあとは、大きな書物の形をしたケーキにナイフを入れ、校長が生徒たちの口に小さく切ったケーキを放り込んで、厳かななかに笑い声がもれる楽しい会となった。修了生を代表して一人の女子生徒が英語でスピーチを行った。テーマは「女性について」。

「コーランによれば、女性は男性と同じく社会の重要な役割を果たすべきである。また、知識を求めることはすべてのムスリムの義務である。私たちはタリバンに女子の学校を開くよう、女子が科学を勉強することを禁じることをやめるよう要求する」

 慣れない英語でたどたどしく、しかし堂々と仲間に語りかける。あどけなさの残る真剣な表情を見ながら、これほど自立心旺盛な女性をアフガン社会は生み出したのだな、と感慨深いものがあった。

 校長はこの「地下学校」を去年10月、たった一人で立ち上げた。学校の教員だった彼女は、女性に差別的なタリバンの施策を見て辞職。「学校に行けなくなったと絶望して泣く少女たちを見て、いてもたってもいられなくなりました。他人事ではありません。私にももう少しで中等教育の年齢になる女の子がいるのです」という。またタリバンが再び権力を奪ったときに国を出た友人もいたが、「みんなが逃げたら、誰がこの国の女性たちのために立ち上がるのでしょう。私は残って闘うことに決めました」と悲壮な決意を語る。

タリバンからの弾圧、妨害

 いま校長を悩ませているのは「学校」の運営資金が行き詰っていることだ。経済制裁の影響もあって暮しが厳しいなか少女たちに負担をかけたくないと、授業料は無料とした。家賃、教師への謝礼などの維持経費は膨らみ続ける。彼女はネットによる語学講義で収入を得、それを「学校」の運営費に回しているがとても追いつかない。他には親しい友人たちからのわずかなカンパがあるだけで、月末のたびに資金繰りで四苦八苦するという。

 タリバンからの弾圧、妨害にも気をつかう。行政による立ち入り調査に備え、生徒も教師もヒジャブと長衣で体を覆っているよう細心の注意をし、つねにコーランを持ち歩いている。実際にタリバンの役人が教室に入ってきたことがあったが、授業をさっとコーランの朗読に切り替えて彼らの目をごまかすことができたという。この校長、修了式の訓示では「みなさん、私たちの挑戦は今日が最後ではありません」と言ったきり、感極まって言葉を続けられなくなった。この事業を運営・維持する苦労、重圧の大きさを思う。いま、この「学校」の人気が高まって参加希望者が急増しており、12月6日にはカブール市内に三つ目の分校ができた。これで生徒総数はおよそ1000人を超えるという。こうした「地下学校」はここだけでなく、各地で自然発生的に生まれ、静かに広がっているという。

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