色気ある中年男の代名詞「古谷一行さん」が、不倫騒動で週刊誌の取材に語ったこと【2022年墓碑銘】

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 満ちては引く潮のように、新型コロナウイルスが流行の波を繰り返した2022年。今年も数多くの著名な役者、経営者、アーティストたちがこの世を去った。「週刊新潮」の長寿連載「墓碑銘」では、旅立った方々が歩んだ人生の歓喜の瞬間はもちろん、困難に見舞われた時期まで余すことなく描いてきた。その波乱に満ちた人生を改めて振り返ることで、故人をしのびたい。

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 1983年、テレビドラマ「金曜日の妻たちへ」は、社会現象と呼ばれるほどの人気を博した。

 古谷一行さんは、いしだあゆみ演じる妻がいる家庭を大切にしながら、小川知子扮する妻の親友と恋に落ちる。服の上からお尻を触る手つきが生々しくてドキリとさせたかと思えば、切なく繊細な心模様も表現できた。

 古谷さんは女性の共感を得て、魅力ある中年男の代名詞になる。不倫を演じる名手とも評された。当の御本人は家ではパジャマ姿、よくおならをして女房に怒られると語り、そんな飾り気のなさも好かれた。

 44年、東京生まれ。本名の読みは、かずゆき。生家は写真館を営んでいた。子供の頃は政治家になる大志を抱き、中央大学法学部に進むと弁護士を目指す。猛勉強が虚しくなり、在学中に俳優座の養成所へ。それでも大学は66年に卒業した。

 舞台や映画ではなかなか芽が出ず、77年、テレビドラマの横溝正史シリーズで、名探偵・金田一耕助の役に抜擢された。ボサボサの髪、よれよれの着物に下駄履き姿で、一躍時の人となった。

 映画評論家の白井佳夫さんは振り返る。

「前年の76年に市川崑監督の『犬神家の一族』で石坂浩二が金田一耕助を好演したばかりでした。石坂さんの金田一にはどこか怖さもあり、テレビには親しみやすい雰囲気の古谷さんが似合った。映画向きの強烈な個性の持ち主ではないがユーモアがありました」

 探偵に続き「金妻」での不倫男も当たり役になる。木の実ナナと刑事のコンビを組んだ82年スタートの「混浴露天風呂連続殺人」シリーズも、ふたりの息の合った軽妙さが評判に。

本物の不倫の名手

 古谷さんが美女と露天風呂に浸かるお色気シーンがお約束だった。共演したAV女優が、口説かれ愛された一夜の秘め事を暴露、92年に大騒ぎとなった。

 古谷さんは新潮社の「FOCUS」の取材に、言い訳をせず事実関係をすぐ認め、「彼女は明るくて、感じのいい娘でした。関係をもった事実には後悔していませんが、表沙汰になったということには後悔しています。自分を戒めないといけない。そりゃ、困ってます。しんどいですよ」と語った。

 正直で、女性をかばった古谷さんの株は上昇。本物の不倫の名手だとして、一層不倫する役を請われた。

 97年、テレビ版「失楽園」で川島なお美を相手に熱演。彼女が照れて生半可なラブシーンにならないよう堂々と接し、妖艶な姿を導いた。

 99年には小説、映画ともに世界を揺るがせた不倫作品「マディソン郡の橋」の世界初となる舞台化に十朱幸代と挑んでいる。

 演劇評論家の大笹吉雄さんは言う。

「舞台では激しい愛情描写はできません。ふたりの視線の合わせ方や手の動きといった何げないことだけで表現しなくてはなりません。恥ずかしがると目の前の観客は白けてしまう。古谷さんは十朱さんを包み込むようにして、恋する女心の演技を引き出していました」

 別れの場面では、観客のすすり泣きも聞こえてきた。

「テレビ出演が主体でも、出発点である舞台を大切にしていました」(大笹さん)

運が良かったから

 73年に結婚。仕事先で一般女性に一目ぼれ、猛烈に迫った。授かった1男は人気バンド「Dragon Ash」の降谷(ふるや)建志さんだ。

 2011年に肺がんを手術、脳への転移も放射線治療で克服した。17年にはNHK連続テレビ小説「ひよっこ」でヒロインの祖父役を快演。若い頃はもてたという設定が古谷さんらしい。

 2年ほど前から体調を崩しがちになるが、復帰に向けて体力作りをしていた。

 8月23日、78歳で逝去。自ら向かった病院で同日のうちに容体が急変した。

「運が良かったから役者を続けてこられた」と謙遜していたが、70年代後半から40年以上人気を保ち続けたのは容易なことではない。

デイリー新潮編集部

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