「First Love 初恋」は不運と不幸と不遇の詰め合わせ! 全話一気に観てしまう魅力とは 

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「First Love」という宇多田ヒカルの曲には号泣の記憶が。失恋したときに繰り返し聴いた。遠い昔の話ね。この曲から作られたドラマが「First Love 初恋」。ダダーン、のNetflix作品だ。

 ひとまず軽い気持ちで観始めたが、全話一気に視聴しちゃった。ヒロインの野口也英(やえ)を演じる満島ひかりは「不運と不幸と不遇」の詰め合わせ。相手・並木晴道を演じる佐藤健は「一途とやさぐれと罪悪感」の詰め合わせ。年末に最適、豪華福袋みたいな作品。豪華の使い方、合ってる? 不幸なひかりと、やさぐれた健は私の大好物なもので。

 この物語は1997年に始まり、四半世紀にわたって展開される恋の紆余曲折。ロスジェネ世代が若い頃に体験した喪失感や歯ぎしりには、見ごたえも見覚えもある。いろいろな落とし物があって、それを拾って集めると、運命だねと思わせる構図。時系列ではなく、現在と過去のエピソードを細かく刻んで、行きつ戻りつで編みこむように見せていく。私の中では「THIS IS US方式」(三つ子の半生を描くアメリカの名作)と呼んでいるのだが、それが実に心地よくうまくいっている。

 学生時代というか、ふたりを引き裂く悲劇が起こるまでを演じたのが、八木莉可子と木戸大聖。ひかりと健とまったく顔が違うのだけれど、出会いから悲劇までのパートを初々しく瑞々しく演じた。純粋に全力で恋をする、おぼこい時期であり、運命の土台形成期だ。

 で、アフター悲劇。なんつっても、ひかりは不憫で健気な也英にぴったり。事故という不運、結婚相手を間違えた不幸、賢さや才能を生かせない不遇。夢をあきらめた悔しさ、離婚後に息子の親権を手放す苦しみ。負の詰め合わせ、完璧なの。

 健は健で、罪の意識と一途な思いを抱き続けているが、航空自衛隊での挫折も経て、年相応にやさぐれた晴道を好演。初恋の相手を20年以上も思い続け、携帯の暗証番号も彼女の誕生日、街で姿を見かけて一心不乱に探す執念……ややホラーだが、これが健だとロマンスに変換されるわけで。5話のワンナイト(ノリのいい女に騎乗位でめっちゃ攻められる)の場面も必須。一途な純潔って大人の魅力に欠けるからな。テレビの恋愛モノに足りない部分ね。

 脇を固める役者陣もいい。也英の母に小泉今日子。女手ひとつで育ててくれた母への思いも展開の要に。也英の息子(荒木飛羽(とわ))と彼の初恋相手(アオイヤマダ)は、也英と晴道を運命の再会へ導く。逆に運命の人になれなかったのは夏帆と濱田岳。

 晴道の家族(底抜けに明るく赤い服の一家)もキャラがいい。ろう者の妹(長澤樹(いつき)→美波)と義弟(若林時英(じえい)→中尾明慶)のスイッチも違和感なしで、親近感あり。

 彼らの約25年は丁寧に観たいと思わせる。北海道の壮大な景色(旭川の環状交差点とか)はもちろん、イラク戦争やリーマンショックの歪み、東日本大震災とコロナ禍の影響、そして自衛隊の存在意義も忌憚なく描くので、ただの恋愛モノではない。宇多田ヒカルの「First Love」がもう失恋のイメージではなくなったよ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年12月22日号掲載

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