「それは分からない」と言えない専門家は信用できない 「感染症の専門家」のうさん臭さ(中川淳一郎)

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 ある外国のニュースに対し、日本在住の関係者やその国在住日本人がメディアに登場しますが、「本当にそこまで断定できるの?」と思うことが多いんですよ。

 もちろん、エリザベス女王が亡くなった時、英王室に詳しい日本人女性がTVにリモート出演して「女王は誰からも愛された。カミラ新王妃は結婚初期は激しく叩かれたが、今はそこそこ支持を得ている」とか言うのは現地の空気感と報道を見ていれば分かる。だから、信頼感がある。

 しかし、北朝鮮関連の話になると、途端に首をひねることもあります。だって、北朝鮮にパイプを持つ日本在住者がいないからここまで「謎の国」なんですよね。これまでにこうした「北朝鮮の専門家」が出る時「なぜこのような格好をしているか」「なぜ、このような写真を撮らせたか」の分析が多いです。

 金正恩氏の髪形と体形と服装について「初代最高指導者の金日成氏をイメージさせたい」はよく分かります。雪の中、白馬にまたがる姿も「金日成氏が乗っていた『神の使い』的イメージ」という分析も歴史的に言い伝えられているので分かる。

 11月19日に朝鮮中央通信が配信した、娘と見られる女児と正恩氏の写真では、女児は白いコートを着ています。TVに出ていた北朝鮮の専門家は「北朝鮮では白が神聖な色とされている」と回答。そうなのかもしれませんが、正恩氏は白い服を着ることはあるものの、黒い服の時が圧倒的に多いですよね……。あと、白が神聖なのであれば、ド派手なピンクが多いマスゲームも本来白であるべきですし、サッカー北朝鮮代表だって赤いユニフォームでなく、時々使用する白をメインにするべきだ。専門家たるもの、何でも答えられることにしなくてはならず、適当に言っているのでは、と勘繰ってしまいます。

 日本が世界から注目されたのはオウム真理教事件の時です。私が在米日本人ジャーナリストだったとしましょう。米人記者から「なぜ、麻原彰晃は赤紫の服で、他の末端信徒は白い服なのか?」と聞かれたら「聖徳太子の時代の『冠位十二階』で紫が最も位が高いとされていたからその名残ではないか」と答えてみせたと思いますが、苦し紛れです。

 オウムに詳しい人であれば、色の意味は伝えられますが、私はあくまで「日本に詳しい」だけで、オウムに詳しいわけではない。ここは「オウムに詳しい在米日本人」が必要なんですよ。

 好奇心旺盛なアメリカ人から「紫が位が高いのであれば、なぜ天皇は紫の服を着ず、黒いスーツを着るのか? 即位の礼では渋いオレンジの着物だった理由はなぜか?」と聞かれたらもう手も足も出ません。ここは「皇室に詳しい日本人」の出番となるわけです。

 それなのに北朝鮮関連では毎度数名の北朝鮮の専門家がありとあらゆる質問に答えられる。コロナで登場する「感染症の専門家」もいつの間にか対策(マスクが効く)・ワクチン(素晴らしい効果)・変異株の特徴(金メダル級のヤバさ)・収束の理由(マスクをピタッと着けた)など、何でも答えられましたよね。いずれもその場の思い付きと思い込み。「そこは分からない」と言える専門家の方が信用できます。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年12月15日号掲載

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