「観戦チケットは俺の月給と同額……」 人口の9割が「出稼ぎ労働者」、W杯開催地“カタール”の深刻すぎる格差

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ビールは1杯2000円

 ユニークなデザインの超近代的な高層ビルが立ち並ぶカタールの首都・ドーハ。地下鉄や道路といった都市インフラ事業に30兆円以上もの“オイルマネー”がつぎ込まれるなど、まさに「世界一裕福な国」を象徴する光景が広がっていた。【藤井悟/ジャーナリスト】

 カタールにはいま、世界各国からサッカーファンが集う。街中ではブラジルやイングランド、フランスなど、さまざまな代表ユニフォームを着た外国人観光客が闊歩し、熱戦が続くサッカーワールドカップ(W杯)カタール大会を満喫中だ。

 国民の大半がイスラム教を信仰するカタールでは、酒や豚肉の国内持ち込みが禁じられている。酒の提供はホテルなど一部の場所に限定されるが、W杯のファンゾーンではビールが1杯約2000円で販売されている。アルゼンチン人の男性(56)は、「リオネル・メッシも大活躍だし、いまのところ最高のW杯さ。ビールがもう少し安ければ、もっと良かったけどね」とビール片手に陽気にはしゃぐ。

 日本国内でも、大会前の無関心ぶりも何処へやら、強豪国のドイツやスペインを“サムライブルー”が撃破したことで列島は沸き立ち、睡眠不足のサポーターも多いはずだ。

 その一方で、今大会は開幕前から出稼ぎ労働者の人権問題などをめぐり、欧州を中心に非難が噴出していた。国際サッカー連盟(FIFA)のゼップ・ブラッター前会長の「カタール開催は間違い」発言も物議を醸している。

労働者の転職を禁じる制度

 欧州サイドが批判しているのは、主に出稼ぎ労働者と、性的マイノリティ(LGBTQ)の人権問題だ。実際、スタジアム建設に従事した出稼ぎ労働者が、劣悪な環境で多数死亡したとして、フランスやドイツでは複数の都市がパブリックビューイングの中止を表明した。中東情勢に詳しい専門家によると、カタールにはかつて、雇用主が出稼ぎ労働者の身元保証人となる「カファラ」と呼ばれる制度があった。労働者は自由な転職が禁じられ、雇用主にパスポートを取り上げられて働かされていた。

 カタールは総人口約300万人のうち、約9割がインドやパキスタン、バングラデシュなどからの出稼ぎ労働者が占める。海外の労働力に頼らなければ、国を維持できない特殊事情があるのだ。ただ、W杯を機にカタール政府は2020年、カファラ制度を廃止。全労働者に最低賃金を適用し、転職可能とする新法を施行した。

「欧州の批判は『ダブルスタンダード』だ。カタールの人権問題を批判するのに、天然ガスや石油のエネルギーを積極的に受け入れたがるのはおかしい」

 エネルギー関連企業に勤めているというカタール国籍の男性(44)は憤りを隠さない。実際に、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアにエネルギー輸入を依存してきた欧州各国は、代替先としてカタールに熱視線を送っている。

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