中国 ゼロコロナ抗議デモと天安門事件の共通点 江沢民の死と共に“社会契約”も失効か

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「来年まで生き残れない」の悲鳴

 天安門事件の際はインフレだったが、今回は雇用不安だ。

 ゼロコロナ政策に加え不動産バブルの崩壊のせいで中小企業を中心に倒産ラッシュが起きており、今年上期の倒産件数は46万件に膨れ上がった。

 下期に入っても中国企業の景況感は悪化するばかりだ。11月の総合購買担当者景気指数(PMI)は47.1と10月から1.9ポイント低下した。製造業と非製造業を合わせた総合PMIが50を下回るのは2ヶ月連続だ。

 景況感の悪化は都市部の雇用悪化に直結する。ゼロコロナ政策で最も苦しんでいるのは対面型のサービス業であり、その雇用の大部分は都市部で生み出されているからだ。

 中でも若年層の雇用不安は深刻だ。

 中国の今年の大学新卒者は1076万人と史上初めて1000万人を突破したが、就職率は2割に届かなかったと言われている。職にあぶれた大卒者が、当座の収入を得るため、個人タクシーの運転手やデリバリー配達員になるケースが当たり前になっている。

 16歳から24歳までの今年6月の失業率は過去最悪の19.3%に上昇し、その後も高止まりの状況が続いている。

 江沢民の時代は高成長に恵まれ、雇用の場は豊富にあったが、現在は様変わりした。膨大なインフラ投資を行ってきた反動で財政金融政策の効果は激減し、経済を長年支えてきた輸出セクターも陰りを見せている。

 中国は建国以来最悪の雇用危機に直面していると言っても過言ではないが、共産党政権は有効な手立てを見いだせていない。「失業の拡大を食い止めるためには一刻も早くゼロコロナ政策を撤回すべきだ」との切なる思いが今回の抗議活動の原動力になっている。

 ゼロコロナ政策に一部緩和の動きが出ているが、政策自体は来年3月に開催される全国人民代表大会(国会に相当)まで続く可能性が高いとされている。

「来年まで生き残れない」と悲鳴を上げる企業は多く、雇用状況はさらに悪化する可能性が高いと言わざるを得ない。

 このような状況にかんがみれば、一時的に鎮圧されたとしても雇用不安という根本の問題が解消されない限り、抗議活動が下火になることはないだろう。

 江沢民の死とともに彼が残した社会契約が失効するような事態になれば、中国は再び動乱の時代を迎えるのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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