堺・父弟殺人で48歳女に無期懲役判決 母親が語った娘への疑念、検察が裁判員に聞かせた119番通報の効果

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「無罪の可能性も」 注目の控訴審

 直接証拠はほとんどなく、検察の立件は苦しかった。そんな中、検察は富夫さんがインスリン注射の直後に倒れ、足立被告が119番に連絡した時の録音を流した。足立被告は非常に落ち着いた様子だった。

 筆者はこの録音を聞いたわけではないが、同様のケースでは「後妻業事件(関西青酸連続死事件)」で知られる筧千佐子・死刑囚(76=死刑確定後、再審請求中)の裁判で聞いたことがある。「夫」が倒れた時、筧死刑囚が落ち着き払って119番していたやりとりの録音が、京都地裁で公開された時のものだ。その経験からも、裁判員に対する心証形成は大きいだろうと感じる。とはいえ、それは殺人を明確に立証する証拠ではない。

 甲南大学名誉教授の園田寿氏(刑事法)は「報道を見る限りですが」とした上で、こう解説する。

「状況証拠の積み上げですが、非常に微妙なケース。無罪になってもおかしくはない。足立被告がパソコンで偽の遺書を打ち込んだといっても、ひょっとしたら離れたところにいた弟と一緒に作っていたかもしれない。父親についても不明な点は多く、殺人未遂になってもおかしくない」

 足立被告の完全黙秘については、「無罪を主張している被告人であっても、『やっていません』と言わなくてはならない義務はありません。法的には弁明する義務は一切ないので、裁判官はそれをもって判断材料にすることはできないのです」と話す。

 とはいえ、「やっていません」の一言もなく、完全黙秘をすることは、裁判官や裁判員の心証形成は良いとは言い難いだろう。

 また園田氏は「証拠についての説明がどのくらいあったのかわからないが、これだけ難しいケースを裁判員裁判にゆだねることはやはり疑問です」と話す。

 足立被告が控訴すれば、法律のプロだけで裁く大阪高裁に審理は移る。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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