どうなるリニア問題 再び泥沼化しそうなJR東海vs静岡県の20年戦争

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「リニア」について口をつぐむ職員たち

 なぜJR東海が言い分を飲む姿勢を見せても、川勝知事は納得しないのか? それは、JR東海が静岡県民から信頼されていないことに起因している。

 静岡県民がJR東海を信頼していないという感情は、長年にわたって醸成された。一朝一夕のものではない。そうした積年の不満が、リニア問題によって増幅した。もはや理屈で解決できる話ではなくなっている。

 筆者は以前から静岡県政や静岡市政の取材をしてきた。静岡県や静岡市に関する取材はリニアの取材ばかりではないが、別件の取材であっても、必ず「リニアについて、どう考えているのか?」を県庁職員に質問するようにしていた。

 リニアの質問に対して、静岡県の職員たちは一様に口が重い。もちろん担当部署ではないから、答えに窮することは理解できる。しかし、ほかの話題なら明朗に答えてくれる職員でも、リニアに話題が移ると当たり障りがないようなことしか口にしなくなる。オフレコ取材であっても同じで、どうしても触れられたくないテーマなのだ。

 他方、JR東海の社員に対しても機会があるごとに「川勝知事について、どう思っているのか?」という質問を繰り返している。こちらの質問も同様で、JR東海の社員は言葉を濁すばかりだった。

 これら両者の取材や周辺関係者からの話を総合すると、静岡県もJR東海もリニアに関しては波風を立てたくないというのが本音のようだ。つまり、静岡県は「JR東海が自主的にリニアの建設中止を言い出してほしい」と願い、JR東海は「川勝知事が任期を終えるまでの辛抱」と時間をやりすごすしかない。両者とも問題に対して消極的で、関係を悪化させたくないから問題を先送りしたい。そんな空気が漂う。

「5期目はないだろう」JR東海の期待を打ち砕いた立候補

 川勝知事とJR東海の対立構図を複雑にしたのが、2011年に静岡市長に当選した田辺信宏市長だった。田辺市長は、かねてから川勝知事と折り合いが悪いことで知られる。

 田辺市長は静岡市が有する権限の範囲内でリニアの工事を認可した。静岡市も決してリニアに賛成というわけではない。これは田辺市長が川勝知事への反抗心から、あえて許可したとも言われている。実際、川勝知事と田辺市長の仲が悪いことは県庁・市役所の職員なら十分に理解している。いずれにしても田辺市長がリニアの工事を認可したことにより、知事と市長の間にあった溝はより深くなったことは間違いない。

 工事が進められないJR東海は、川勝知事が任期を終えるまで……とひたすら耐えてきた。川勝知事は3期で勇退するとの観測も流れていたが、それらの予想を裏切って2021年の知事選に出馬。鮮やかに4選を決めた。

 川勝知事が4選を決めたことで、JR東海の雌伏期間は4年も延長される。当然、リニア開業も先延ばしになる。最悪の場合、開業できないかもしれない。そんな思いと焦りが交錯し、JR東海は静岡県との交渉でさらなる譲歩をしなくてはならない状況にまで追い込まれていく。

 しかし、川勝知事の4期目の任期は2025年まで。現在74歳の川勝知事が5選に出馬するとなると76歳となる。高齢なので、さすがに5期目は考えづらい。川勝知事が退任するまで粘れば、JR東海に不利な条件を覆せるかもしれない。

 ところが現実は、JR東海の考えを打ち砕いていく。来春の静岡市長選に、難波喬司氏が立候補を表明したからだ。

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