カルト宗教の家で育てられトラウマを持つ横道誠 部屋を動物の剥製など「不気味な品々」で埋め尽くす理由とは

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「地獄行きのタイムマシン」

 ドイツ文学の研究の傍ら、自閉スペクトラム症と注意欠如・多動症の当事者として、『みんな水の中』『イスタンブールで青に溺れる』などの著書をつづる横道誠さん。強烈な「こだわり」を持つ彼が自身の部屋に並べる、骨董屋や骨董市で手に入れた不気味な品々とは。

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 自閉スペクトラム症の特徴として、強烈な「こだわり」がある。なぜそんなものに執着するのか?という対象に夢中になる。私も典型的にそうだ。

 裏返してみれば、つまり「自閉的」な私たちから見れば、自閉スペクトラム症がない「定型発達者」のほうが他者に開かれていること、すなわち「社交的」なことに「こだわり」があるように見えるわけだが、この話をするとややこしくなるので、いまは置いておこう。

 いずれにしても、私には標準的と見られない「こだわり」がある。またカルト宗教の家で育てられたことで、心がグジャグジャに折られるようなトラウマ体験が豊富にあって、毎日ひっきりなしにフラッシュバックが起こる。私はそれを「地獄行きのタイムマシン」と呼ぶ。いつでも乗りこめる私有のタイムマシン。行き先は肉体的暴力に毎日さらされていた幼少期の地獄の日々。あなたはそんなタイムマシンに乗ってみたいですか?

「本物ですか?」と恐怖に顔をゆがめる客人たち

 そんな私にとって、普通の部屋はよそよそしく感じられる。自分の内面を支配する悪夢的世界に対応した部屋でないと落ち着けない、という困ったおじさんになってしまった。そこで私は、自宅を怪奇に満ちた空間へと仕立ててきた。

 不気味な品を骨董屋や骨董市などで入手するたびに、興奮に包まれた。初めて買ったのは祇園で見つけた人間の手のホルマリン漬け標本だ。手の甲には美女のタトゥーが彫ってある。これはもちろんフェイク、つまり作り物なのだが、私が住むマンションの玄関に飾られたそれを、多くの客が「本物ですか?」と恐怖に顔をゆがめて尋ねてくる。本物にしか見えないのだ。「まさか本物ではないですよね」と真剣な顔で尋ねてくるので、私も真剣な顔で「もちろん本物です。自慢の一品です」と力強く保証している。

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