100億円をだまし取った「パクリ屋のドン」が急死 実の娘、親族が明かす素顔と「最期の言葉」

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 捜査関係者から「パクリ屋のドン」と呼ばれた大物詐欺師が、保釈された後に急死していた。表沙汰にならなかった事件も含めれば、男が仕掛けた詐欺の被害額は100億円を超えるともいわれるが、いったい何者なのか。家族でさえ知らなかった男の数奇な半生をたどる。

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 10月18日の夕刻、羽田発宮崎行きのANA613便が離陸する直前、前列のプレミアムシートに座る老人が突如、苦しみ始めた。機長判断で搭乗を続けるのが難しいとされたこの乗客は、救急車で大田区蒲田の総合病院へと運ばれた。

 その4日後、人知れず搬送先で息を引き取ったのが武藤勝(享年82)である。捜査員らの隠語で「パクリ屋のドン」と呼ばれた大物詐欺師で、もともとは恰幅(かっぷく)がよかった彼も、最期は骨と皮だけが残ったように痩せこけてしまっていた。

 今年1月、武藤は手下の3人と共謀し、神奈川県藤沢市にある卸売会社「七里物産」の人間を名乗り、全国16都道府県にある23の食品会社などからカニやローストビーフなどの高級食材、計8千万円相当をだまし取った容疑で警視庁捜査2課に逮捕されていた。

 その後、取り調べは続いたが、9月27日に体調を崩して末期がんであることが発覚し、肺など全身に転移が認められた。公判に耐える体力はないと当局が判断。保釈当日、家族の待つ宮崎への途上で倒れたのだ。

「取り込み詐欺」の手口

 そもそも表沙汰にならないケースも含めれば、100億円超ものカネを巻き上げたとされる武藤は、どんな手口で世間をだましてきたのか。

 警視庁担当記者が言う。

「最後に逮捕された事件でいえば、彼らは標的とした業者に“北海道の水産品をスーパーや給食に卸したい”などとまことしやかな営業トークで近づき、少額の取引を何度か済ませて信用を得る。そうやって安心させたところで武藤らは大口の発注をかけ、商品を受け取った後に会社が倒産した旨の通知書を送りつけ、代金を踏み倒すわけです。この数年は、コロナ禍で在庫を抱えた業者をターゲットにしていたようです」

 この手の犯罪は「取り込み詐欺」、通称「パクリ屋」と呼ばれるそうだが、共犯者に各々“部長”などの肩書を持たせて信用を集める組織作りや、せしめた食品を腐らぬうちに闇に流すルートなどは一朝一夕では築けず、斯界でも武藤の手法は折り紙付きだったとか。

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