「出産準備金」新設は効果なし! 結婚、子育てが損になる国・日本…欧米との違いを専門家が解説

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男性も女性も自分の収入だけでは生活できない

 更に、今の若い人の経済状況はよくない。女性だけでなく男性にも非正規雇用が広がっている。正社員でも、一昔前なら期待できたかもしれない収入増加が、近年はベースアップもほとんどなくなかなか期待できない。その一方で子どもにかける学費は増えている。1980年代は年間40万~50万円だった私立大学の授業料は、現在、90万円を超えるようになっている。これでは子どもを大学に行かせることができない。

 収入が不十分な男性は、結婚相手として選ばれにくい傾向がある。近年は、男性も結婚相手の女性にそれなりの収入を求める人が増えている。自分の収入だけでは、十分な生活ができないことがだんだん分かってきたからである。とすると、男女ともに、収入が不安定な若者は結婚しにくく、その結果、少子化が起きるのである。

対策はできるのか?

 このような状況の中で、政府が行っているのは、保育園の増設や出産一時金、児童手当の増額といったものだ。また新生児1人10万円の出産準備金も新たに検討され、出産から子育てもサポートする「伴走型相談支援」も考えられているが、こうした政策では、子どもが大きく増えるとは考えられない。高校や大学までの学費を賄うにはそれだけでは足りないからである。

 また、結婚が少なくなっているからといって、婚活支援で出会いを増やしたところで、「経済」が結婚難の要因であれば、結婚が大きく増えるわけではない。

 若者の将来の経済不安が少子化の根本原因だとすると、その不安を払拭しなければならない。そのためには、相当の財政支出が必要になる。

 ハンガリーのオルバン政権は、GDPの5%弱を少子化対策に使って、出生率を上げたことで有名である(合計特殊出生率は、政権誕生時の2010年が1.25、2020年は1.56)。日本に当てはめると、年約25兆円となる。結婚した若者に住宅を安く供給する、大学を無料にする、奨学金をチャラにするといった思い切った支出をしなければ、子どもは増えないだろう。

 それが無理ならば、少子化を受け入れるしかない。それは、人々の生活が徐々に貧しくなるのを受け入れることと同じである。というよりも、何もしなければそのような方向に日本社会が進んでいくのである。

山田昌弘(やまだまさひろ)
中央大学教授。1957年東京生まれ。東京大学文学部卒。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、中央大学文学部教授。専門は家族社会学。『新型格差社会』『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか? 結婚・出産が回避される本当の原因』など著書多数。

週刊新潮 2022年11月10日号掲載

特集「『出産準備金』『伴走型子育て支援』新設だけでは効果なし 間違いだらけの『少子化対策』」より

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