サンドウィッチマンのコントを完成させた名物プロデュ―サーの述懐 番組作りは“お笑い”が一番難しい理由

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大衆の「潜在」を見抜け

 一方、波田陽区(47)やコウメ太夫(50)たちも発掘し、それぞれのブームも巻き起こした。2人ともほかのお笑い番組はノーマークに近かった。どうやって世間のニーズを察知するのだろう。

五味「それが、さっきも言った最大公約数的なものの理解なんです」

 お笑いも含め、エンタメでヒットを得るためには大衆の大多数が求めているものを読み取らなくてはならないという。

五味「映画もYouTubeもTikTokもそう。最大公約数に支持されなくてはなりませんからね。そして、その支持を得るにはどうすれば良いかを自分でジャッジするんです」

 ジャッジする際の秘訣はあるのだろうか。

五味「顕在ではなく、潜在です」

 目に見えるものでなく、大衆が潜在的に求めているものを考察するのだという。これがヒットを生むための「五味理論」の1つである。

五味「潜在で求められているものは何かを考える時、それはシンプルなものであっていい。例えば『お金』。YouTubeの芸人チャンネルの中で今、凄く伸びている霜降り明星の粗品君。彼は競馬やカジノで滅茶苦茶なお金の使い方をして、それを晒している。数百万円単位で使っていますよ。借金もあり、それがウケている」

 確かにお金に興味のない人は稀に違いない。でも普段はそれを強く意識していないから、潜在的だ。

五味「お金に限らす、大衆が求めている潜在的なものって、シンプルなんです。例えば『ジョーズ』などスティーヴン・スピルバーグ監督の映画もみんなそう。単純に感情移入できるようになっている。スピルバーグ監督は人間が何に対して感動するのか、何を面白いと思うのかを極限的に思い浮かべ、そこに肉付けしている。『サメ(ジョーズ)』『宇宙人(E.T.)』『タイムマシン(バック・トゥ・ザ・フューチャー)』『恐竜(ジュラシック・パーク)』などベースはみんな分かりやすく、興味を持たれやすいモノ。至ってシンプルなんです。『半沢直樹』(TBS)もそうでした。勧善懲悪という時代劇のようなシンプルな構造をベースに、現代社会でのドラマが展開されていたんです」

知力を問わないクイズと知力を見せるクイズ

 ほかに自分の番組をつくる際に心掛けてきたことはあるのだろうか。

五味「癖というか、芸風みたいなものですが、10代から40代までが分かる内容にすることを常に念頭に置いてきましたね」

 五味氏の番組は10代に刺さることで知られている。レギュラー番組だったころの「エンタ」はその時間にテレビを観ている10代の約5割が観ていた。圧倒的なシェアだった。

 現在放送中で監修を務めた「クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?」(金曜午後7時)の視聴者層も若い。民放が最も気にするコア視聴率(13~49歳)は10月14日放送分の場合、4.0%。この日のプライム帯(午後7時~同11時)の全番組の中でトップだった。

五味「この番組のフォーマットは米国から買いましたが、解答者が答えられない時に小学5年生が救済するというシステムの仕組みとか解答者の背景の強調とか細かいニュアンスは僕がアドバイスしました」

 小5が救済するところが、この番組のミソなのだ。小5までの教科書に書かれていることが問題となるが、答えられない解答者は小5の優等生に助けを求めることも出来る。大人が子供に力を借りるから面白い。

 このクイズのように難易度がさほど高くなかったり、「マジカル頭脳パワー!!」など知識をあまり問わなかったりするクイズを次々とヒットさせたが、逆もあった。

 第28回(2008年)から第31回(2011年)までの「全国高等学校クイズ選手権」である。この間、番組は「知力の甲子園」と銘打たれ、全国の高校生たちがガチで知識を競った。

五味「スポーツの得意な高校生には甲子園など脚光を浴びる機会があります。けれども、勉強が得意な高校生がスポットライトを浴びることはない思ったからです」

 超難問も多かった。

五味「観ている方に一緒に答えを考えてもらうというより、異次元の高校生たちの頭の良さをスポーツ感覚で観てもらいたかった」

 それまでのクイズとは発想が違ったのだ。TBS「東大王」(2017年~)が始まる10年近く前のことである。

 2011年には「知の甲子園」のコンセプトを受け継ぐ形で「頭脳王 」が特番として始まり、今も1年おきのペースで放送されている。企画・演出はもちろん五味氏である。

 もっとも、五味氏はクイズの才能や偏差値と頭の良さは全く別だと考えている。

五味「人間の才能というのはいくつも柱があり、偏差値が高いというのはその柱の1つに過ぎないと思っています。ほかにも才能の柱はEQ(感情をコントロールする能力)などいっぱいある。また、お笑い界で成功する人はみんな物凄く頭が良いのですが、一方で東大出身の人にヒットクリエーターは意外と少ない」

 エンタメ界を目指す場合、「一番重要なのは、10歳から18歳までにどれだけ情操教育を受けるか。因数分解とか化学式は関係ない」と語る。

 五味氏は既に大学で特別講師役を務めたり、企画演出塾などで後進の指導に当たったりしてきたが、今後は文科省の決めた学習要項が全てではないことも説いていきたいという。

五味「偏差値ではない才能のある人にそれを気付かせたい。あとはメタバースとかVRとか、新しい映像世界が出来たので、そのコンテンツもつくってみたいですね。地上波の仕事に拘らず、いろいろな角度から新しいことをやっていければいいと思っています」

 五味氏の新たなステージが始まった。

五味一男(ごみ・かずお)
1956年、長野県生まれ、早大を中退し、日大学芸術学部へ。同大卒業後、東映を経て、1987年に日本テレビに入社。「クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!」など数々の高視聴率番組を手掛けた。2007年、同社で史上最年少の50歳で執行役員に。その後、直系制作会社・日テレアックスオン副社長などを歴任。著書に『ヒット率99%の超理論』(PHP研究所)など

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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