9度目の世界一になったR・マキロイ 「2歳で飛距離は40ヤード」の天才児がゴルフ界の牽引役になるまで

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リブゴルフ創設後は…

 暦が2022年に変わるころから、グレッグ・ノーマンによるリブゴルフ創設が現実味を帯び始め、世界のゴルフ界は大きく揺れ出した。

 そして今年6月、リブゴルフがロンドン郊外で開催した初戦には、PGAツアーのスター選手たちが17名も出場。その中には、同週にPGAツアーで開催されたRBCカナディアン・オープンの大会ホストを務めるはずだったRBC契約選手のダスティン・ジョンソンとグレーム・マクドウェルも含まれていた。

 大会ホスト2人を失い、本来なら出場していたであろう他の人気選手たちの姿もなくなった同大会は、少々寂しい顔ぶれになった。しかし、そこで見事なゴルフを披露し、大会2勝目、通算21勝目を飾って盛り上げたのがマキロイだった。

 その後もリブゴルフは第2戦、第3戦、第4戦と試合を重ね、そのたびに有名選手がPGAツアーからリブゴルフへと移籍していった。そんな2022年シーズン、常に声を大にしてPGAツアーへの忠誠を誓い、周囲の選手たちに「一緒に頑張ろう。僕たちのツアーを守ろう」と呼びかけてきたのもマキロイだった。

 シーズンエンドのプレーオフ・シリーズ第2戦、BMW選手権の開幕前には、フロリダの自宅で右足のリハビリ中だったウッズをプライベートジェットで呼び寄せ、緊急の選手会を開催。選手として考えうるリブゴルフへの対抗策をみんなで練り、打ち出した。PGAツアーのジェイ・モナハン会長は、マキロイから預かった選手会の声を最大限反映させつつ、翌週のツアー選手権開幕前に2023年シーズンからの大改革を発表した。

「スター選手が勢揃いしてこそ、PGAツアーのファンが増える」と主張したマキロイらの意見が反映された結果、2023年シーズンからはトッププレーヤーの年間出場義務試合数が従来の15試合から20試合へ増やされるなどのビッグチェンジが敢行されることになった。

 そんな驚きの発表が行なわれた4日後、マキロイは今年のマスターズ覇者スコッティ・シェフラーとの優勝争いを制し、ツアー選手権を制覇して自身3度目の年間王者に輝いた。

「世界のベストプレーヤーが集結しているこのPGAツアーこそが、世界で最もグレートな場所だ」

 力強くそう言い切ったマキロイは、自身の今季初戦となったCJカップを制し、通算23勝目を挙げて、9度目の世界ランキング1位に返り咲いた。彼が勝つとき、そこにはいつもゴルフ界にとって深く大きな意味があり、それは彼が生まれ付いた定めのように感じられる。

「僕は運命よりジャーニーを楽しみたい」

 マキロイはそう言っている。山頂に上り詰めることも、滑り落ちることも、再び這い上がることも、すべては旅の途中の出来事で、マキロイはその旅を「エンジョイしている」。同時に彼は、ゴルフ界の牽引役を担うという重い運命をも自ずと謳歌しているのではないだろうか。楽しまなければ、楽しめなければ、重いリーダーの役割を果たすことはできないだろう。自ずとエンジョイできているからこそ、マキロイは「ここぞ」という大事な節目で勝ち、そうやってゴルフ界を引っ張っていく。

 そんなマキロイこそが、「真のスター」「本物のリーダー」だと私は思う。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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