日米韓共同訓練で韓国の国論は真っ二つに… 迷走の本質は「恐中病」

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「反中」には腰引ける保守

――保守派は「中国に立ち向かう」のですか?

鈴置:そうはなりません。保守は「日米韓の結束」を訴えますが、左派と同様に「中国に立ち向かう」覚悟はありません。

 朝鮮日報の社説「『日本との訓練は親日』という野党議員、自分は軍当時に日本と6回訓練」(10月14日、韓国語版)がそれを垣間見せました。「親日国防」と言い募る左派を攻撃する社説ですが、前文の最後が以下でした。

・韓米日のどの国の政府も3国軍事同盟に言及したことはない。韓米、米日の同盟は存在するが、3国同盟の可能性は皆が否認しているのだ。

 左派の「中国との関係が悪化する」との批判を牽制したつもりでしょう。が、この文章自体が文在寅政権の約束である「3NO」の尊重を前提にしています。本当に「中国に立ち向かう」覚悟があるのなら、自分の国の防衛にタガをはめる「3NO」など無視するでしょう。

 そもそも、尹錫悦政権は「3NO」に金縛りになっていた。米国に叱られて、ようやく3カ国共同訓練には踏み切ったのです。今後、中国にビンタを張られたら尹錫悦政権は、よろよろと中国の言いなりになるでしょう。

――韓国の迷走は続きますね。

鈴置:その通りです。韓国は米国主導の半導体分野での中国包囲網「Chip4」に参加の意向をにじませながら、中国には中国包囲網には加わらないと約束した(「二枚舌外交を極める尹錫悦 米中二股にいら立つバイデンの『お仕置き』のタイミング」参照)。

 米中双方から踏み絵を突き付けられる材料が山積しています。台湾有事もそうですし。内部分裂のあげく、国の針路を定められずに滅んだ李氏朝鮮の末期を思い出させます。

対韓譲歩派の浅知恵

――日本はどうすればいいのでしょう?

鈴置:距離を置いて、展開を見守ればいいのです。一番の悪手が余計な手出しをすることです。ずぶずぶと沈みゆく国と深くかかわってはいけません。

 ところが日本には「韓国に譲歩して、こちら側に引き寄せよう」と唱える外交専門家や韓国専門家がいます。日米韓の共同軍事演習を見ても、彼らの主張はとっくに破綻しているというのに。

 対韓譲歩派は「中国や北朝鮮の脅威に抗するには韓国との軍事協力が必要だ。保守政権が登場した今がチャンスだ。半導体素材の輸出管理の緩和など、韓国の要望を受け入れるべきだ」と言ってきました。

 でも、輸出管理を緩める前に日米韓の共同訓練は実現しました。「日本の譲歩」がなくとも「米国の圧力」があれば、韓国は共同訓練に参加するのです。

 逆に、「日本の譲歩」があろうとなかろうと、「中国の威嚇」があれば韓国は共同演習から抜けるのです。

――日本に韓国を動かす力はない……。

鈴置:まさに、そこがポイントです。韓国は米中のパワーゲームの下で動いている。「日本が譲歩すれば韓国を動かせる」との考えは、極めて傲慢な発想です。なぜか、ここが分かっていない「専門家」が多いのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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