奈緒主演「ファーストペンギン!」は3つの根拠でヒットの予感

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 10月期ドラマが相次いで始まっているが、大化けが見込まれる作品がある。第1話の放送が済んだ日本テレビ「ファーストペンギン!」(水曜午後10時)だ。その理由を3つ挙げたい。

脚本がいい

 コメディタッチで軽く仕上げられているが、強烈なメッセージが込められている。社会派色も強い。

 主人公はシングルマザー・岩崎和佳(奈緒、27)。瀬戸内海にある汐ヶ崎ホテルの仲居だが、漁船団「さんし船団丸」社長の片岡洋(堤真一)に頼まれ、寂れた汐ヶ崎の浜と同船団の再建に挑み始めた。

「この浜を立て直してもらいたい」(片岡)

 汐ヶ崎の漁獲高は20年前と比べて3分の1に減っていた。一方で魚を食べない人が増えたため、魚の値段は下がっている。

 だから漁師は儲からなくなり、なり手がいない。「さんし船団丸」の漁師の年収は200万円以下だった。

「こんままじゃ、この浜は死ぬ」(片岡)

 片岡はその理由が自分たちにあることが分かっていた。魚を獲ることしか考えず、持続する努力を全くしてこなかったためだ。

「浜を元通りにして自分の人生を終いにしたい」(片岡)

 そこで和佳に白羽の矢が立てられたわけだが、和佳はアジとサバの区別すら付かない海のド素人。コンサルタントが出来ると吹聴していたものの、実績は不明である。

 半面、和佳には人並み外れたバイタリティがある。また何事にも前向き。なにより、日本人が屈しやすい同調圧力に負けない強さがある。

 和佳は「さんし船団丸」の収益性を劇的にアップさせようと、魚の直売ビジネス「お魚ボックス」を考え出す。国の許可も取った。

 直売にすれば、魚を一括して買い上げていた漁業協同組合と小売店の手数料がなくなるので、魚の売買価格は3倍以上に跳ね上がる。

 和佳は漁協を中心とするムラ社会と古いシステムをブッ壊そうとしたのだ。すると、ムラのボス・汐ヶ崎漁協組合長の杉浦久光(梅沢富美男)は激怒した。片岡と和佳のところを訪れ、脅迫めいた言葉を交えながら、「お魚ボックス」を止めさせようとした。

 だが、和佳は怯まなかった。

「このアマ、いかれとんのと違うか?」(杉浦)
「いかれてんのはテメーだ、タコ!」(和佳)

 杉浦は目の前の利益しか頭にない。漁師の生活が苦しかろうが、自分は魚の売買を独占することで手数料が稼げる。漁協というムラを守れば、船への燃料と氷の販売でも儲けられる。

 一方、和佳は「お魚ボックス」によって、漁師の低収入問題を解決し、まず若者らを船に呼び戻そうと考えた。どんな産業も働き手がいないと死ぬ。和佳はそれに気づこうとしない杉浦に向かって吠えた。

「このままいけば、あんたは間違いなく、この浜を潰した無能な組合長として終わる」(和佳)

 正論だから痛快だった。また、なにより興味をそそられたのは、和佳の再建が未来まで見据えたものだと予感させたところ。片岡もそう望んでいる。

 再建をテーマにしたドラマは数多い。病院を舞台にしたテレビ東京「病院の治しかた~ドクター有原の挑戦~」(2020年)などである。TBS「半沢直樹」(同)も半官半民の航空会社・帝国航空の建て直しを描いた。レストラン、ホテルなどの再建がドラマで表されたこともある。

 ただし、大半が再建するまでの物語。会社なら黒字化の目途が立った時点でゴールだ。一方、和佳たちは違う。後に続く世代のために浜と漁業を蘇らせようとしている。新鮮だし、面白い。

 そもそも第1次産業の立て直しがドラマで描かれるのは珍しい。調べたところ、漁業の再建がテーマになるのは初めてだ。目新しさがある。

 娯楽性の織り込み方も巧み。例えば和佳が魚のキロ当たりの末端価格を電話で口にしていたところ、勤務先のホテルの女将(伊藤かずえ)が薬物の取り引きと勘違い

「キロ、末端って、何の話?」と青ざめた時にはクスリとした。

 森下佳子さん(51)の脚本はいつもながら完成度が高い。隙がない。

 同調圧力の描き方も出色だった。その言葉を直接的に一切使わず、和佳の高校時代のエピソードで表した。

 生まれつき髪の毛が薄茶色の女子が転校してきた。教師は「黒く染めてこい」と命じる。だが、校則には「毛染めをするな」とあるから矛盾する。

 なので、和佳は教師に対し、その校則の削除が先だと主張した。髪が薄茶色の女子も染めることを嫌がっていた。

 クラスメイトたちも和佳に同調した。ところが、いざホームルームでこの件が議題になり、教師と対峙すると、みんな尻込みしてしまう。

 あろうことか、髪を染めろと命じられた女子まで和佳の行動を「迷惑」と言い始めた。同調圧力そのものである。

 第1話の終盤、和佳は「また、これか」とつぶやく。片岡が「お魚ボックス」に大喜びで賛同しながら、杉浦に恫喝された途端、裏切り、ムラの掟に従おうとしたからだ。教師に逆らわず、学校の不文律に従った高校時代のクラスメイトたちとそっくりだった。

 だが、ここからの和佳は高校時代と違った。高校時代は孤立するや自分の主張を引っ込めたが、今度は一歩も引かなかった。

 和佳は片岡に向かって「あんたなんか、クソ野郎ですらないわ! ただのクソだよ、クソ!」と咆哮。杉浦のことは「笑われればいいわ!」と面罵した。

 和佳による独演会は約2分間続いた。その指摘はいちいち的を射ていたので、胸がすいた。

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